1.はじめに
本シリーズは、「家を建てる方が知っておいて頂きたいシックハウス」と題して、纏めたものです。前回は、前編として「その1 シックハウス問題は解決したのか」と題して発信しました。今回はその後編として、「その2 シックハウスに罹らない為には」と題して纏めて見ました。これから家を建てられる方が万が一にも、シックハウスの被害に遭う事が無く、快適な住環境の基での豊かな生活を送る上で、少しでも参考になればと思い、発信しました。シックハウス症候群になってからでは遅いのです。シックハウス症候群にならないためには、私達はどうするかです。「転ばぬ先の杖」です。是非ともビルダーもユーザーもお読み頂き、参考にして頂ければ幸いです。
2.シックハウスに罹らない為には
ご存知のように花粉症の人は、必ず春になるとその症状に見舞われ、人知れずの苦労を負うことになります。現状では花粉症を治す有力な医学的治療法が見出されていません。同じくもしも運が悪く、シックハウス症候群に見舞われると、花粉症のように有力な治療法がなく、日常生活に多大なリスクを負うことになります。その為には、シックハウス症候群にならないようにする事です。シックハウス症候群に罹らないようにする為には、どのような対策を取るべきかを確りと知っておくことが大切になります。以下、その対策法についてご紹介をしたいと思います。
[対策法 1] 入居前に室内VOCの測定を必ず実施する。
VOCの測定は、ホルムアルデヒドやトルエン、キシレンといったVOCの室内の空気中濃度を測定し、厚生労働省の指針値と比較することで住宅の健康性を判断する目安になります。特に化学物質に過敏なユーザーは、VOCの濃度が指針値以下であれば、より高い安心感を得ることが出来ることになります。また万が一にも、入居後に健康障害が起こっても、測定されたVOCが指針値以下であれば、ビルダーに過失がないとの証明にもなります。
これまで病院でシックハウス症候群と判断された場合でのユーザーが、裁判問題で不利な立場に置かれたのは、室内のVOCの測定をする事を無くして入居し、運悪くシックハウス症候群になることです。シックハウス症候群であると判断される期間は、どうしても入居後半年、或いは1年遅れとなります。その段階でのVOCを測定しても、値は室内から放散される為に大部分が厚生労働省の指針値以下となっていることです。このような事態を避けるためには、入居前にシックハウスを引き起こすVOCの測定を行なっておく事が極めて大切となります。
室内のVOCの測定に関しては、厚生労働省が定めた「室内空気測定のガイドライン」において、アクティブ法が標準的な方法として定められています。しかし測定に要する時間と費用の両面から、比較的低価格で、かつ短時間で対応出来るパッシブ法を用いられる事が多いのが実情です。また厚生労働省も、パッシブ法に関してもVOCの測定方法として認めています。このようにVOCの測定として、アクティブ法とパッシブ法の二つがそれぞれ用いられていますが、両者にどのような違いがあるかは、日本VOC測定協会のホームページの技術資料3の「アクティブ法とパッシブ法の違いは」に詳しく記載されています。その中でアクティブ法とパッシブ法の最も大きな違いは、アクティブ法ではVOCの最大濃度の評価であり、パッシブ法はVOC濃度の昼夜の平均値の評価であることです。特に昼夜での室内の温度差が大きい機関では、昼と夜ではVOCの放散量が異なる為に、両者の測定値においてかなりの違いを生み出します。シックハウスは、VOCの最大濃度に強く支配される。その為に室内のVOCの濃度が最も高くなるとされる午後2~3時に測定することを義務付けているアクティブ法は、シックハウスに対処するに当っては、最もベターな測定法であると言えます。
測定されたVOCの分析機関は、少なくとも各都道府県に1ヶ所程度あります。また測定を含めた分析費用はパッシブ法で3~5万円、アクティブ法で4~6万円程度です。この程度の費用で、シックハウスを防ぎ、かつ安全な住環境が保障されると考えると、極めて安価であると言えます。万が一にもシックハウス症候群なった時の日々の生活で負う数々のリスク、及び回復するまでの長い期間と必要な治療費を考えると、まず入居前にVOCの測定を実施する事が如何に大事である事は、お分かり頂けるものと思います。
[対策法 2] シックハウスに関する間違った考えを直す。
(1)F☆☆☆☆の建材を採用しているので、シックハウスに関しては全く問題ない: F☆☆☆☆の建材はあくまでもホルムアルデヒドの対策に関するもので、トルエン、キシレン等の他のVOCには関係していません。また現在の建築基準法(シックハウス新法)で規制する化学物質は、ホルムアルデヒドとクロルピリホスの二つだけです。トルエンやキシレン、アセトアルデヒドなどは、人体への影響は、ホルムアルデヒドと同じであるとされているにも関わらず、未だに法律でその使用は規制されていません。今後ともその規制の動きは無いでしょう。
(2)天然素材を用いているので、シックハウスに関しては問題ない : 天然素材を用いたと言っても、安心出来ません。最近のVOCの測定・分析においては、図1に示すように、アセトアルデヒドが厚生労働省の指針値をオーバーすることが多々あります。アセトアルデヒドは、特異な刺激臭を持つ無色の液体で、ホルムアルデヒドと同様に、塗料や接着剤などに含まれており、頭痛やめまいを引き起こすシックハウス症候群の原因物質の一つであります。アセトアルデヒドは、身近なものとしては、エチルアルコール『アルコール』が酸化すると生じます。いわゆる二日酔いの原因となる物質です。アセトアルデヒドは、表1に示すように、木材から発生することが知られています。トドマツやカラマツ等の針葉樹、広葉樹のヤチダモからの放散が認められています。また最近国産建材用木材であるスギ材からの発散が確認されています。このように木材からアセトアルデヒドが発散されることから、天然素材を使用したからと言っても、健康住宅であると必ずしも言い切れません。
図1 最近のVOCの測定結果
品目 | 内容 |
木材 | トドマツ、カラマツ、ヤチダモ,ベイマツ,アカマツ、スギ |
接着剤 | 酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤 |
塗料 | 水性合成塗料、自然系塗料 |
溶剤 | エタノール |
表1 アセトアルデヒドの発生源
(3)VOCを軽減する建材を用いているのでシックハウスに関しては問題ない : 表2にVOCを軽減させる建材を示してあります。「エコカラット」以外は、基本的にはホルムアルデヒドを吸収分解するもので、他のトルエン、アセトアルデヒド等の軽減は期待できません。またエコカラットは、調湿、消臭、VOCの吸着を行なうもので、単に湿気、臭いと共にVOCを建材内留め置くもので、当然ながら吸収と放出を繰り返し、根本的なVOC軽減対策建材ではありません。このことから、VOCを軽減させる建材を採用したとしても、極限定されたVOCのみ(主にホルムアルデヒド)に効果があるもので、他のVOCの軽減に効果がないことを確りと心に留め置なければなりません。
メーカー | 建材 |
吉野石膏(株) | タイガーハイクリンボード |
(株)INAX | エコカラット |
大建工業(株) | ダイロートン健康快適天井材吸ホル天 |
吉野石膏(株) | タイガーケンコート |
表2 VOC軽減建材
(4)簡易型VOCの測定機器による測定は、単に目安だけのもので信頼性に欠けている : VOCの測定に当たっては、多くの簡易型の測定機器が販売され、使用されています。その中の大部分は、TVOC(総揮発性有機化合物)と、HCHO(ホルムアルデヒド)の測定が出来るものであり、他のVOCの測定は現在のところ殆んど出来ません。表3に現在販売されている簡易型VOC測定器を纏めて示してあります。
汚染源 | 測定原理 | メーカー等 |
TVOC | FID | バーキンエルマー,島津 |
熱線半導体 | 新コスモス電機 | |
光音響 | B&K(松下インターテクノ) | |
イオン化 | バーキンエルマー,日本電子 | |
HCHO | 検知管 | 公明理化学,ガステック |
検知紙 | ドレーゲル | |
定電位電解 | 新コスモス電機,オービス | |
化学発光 | ファームテック | |
吸収/吸光光度 | 島津,DKK | |
検知紙/光電光度 | 理研計器 |
表3 販売されている簡易型VOC測定器
図2は、簡易型VOC測定器の測定精度はどの程度のものとなっているかを示したものです。図3示すように、高速液体クロマトグラフで測定された真値のホルムアルデヒドが60ppbにおいては、簡易型ホルムアルデヒドの測定器での値は38ppbであり、112ppbの時では42ppbとかなりの違いがあることが分かります。厚生労働省が出していますホルムアルデヒドの指針値は80ppbですが、例えば測定値が79ppbであれば問題はないが、81ppbでは指針値をオーバーすることから、居住者は不安を抱かさせることになります。図5に示すように、簡易型ホルムアルデヒドの測定器での値は、最大で3倍程度の差異があることから、指針値をクリアーしているか、あるいはオーバーしているかの判断にはあまり使えないと考えるべきです。簡易型VOC測定器は、あくまでもVOCの有無の目安しかありません。
図2 簡易型ホルムアルデヒドの測定器の検量線図
図3 ホルムアルデヒドの分析機器・高速液体クロマトグラフ
[対策法 3] シックハウスを防ぐ基本は室内換気である。
シックハウス新法に定められている室内の換気における換気回数0.5回/hは、その能力を有する機械換気設備を設ける事を定めたもので、施工後においての換気回数0.5回/hが確保されているかどうかの検証は、義務付けされていないのが最大の欠点であり、盲点となっています。その為に、実際には換気回数0.5回/hが確保されていない、壁付きパイプファン等のものが市場で大手を振ってまかり通っているわけです。その面で換気回数に関しては、シックハウス新法はザル法と言わざるを得ません。シックハウス新法が施行されてから、10年を経過していますが、室内のVOC濃度と換気回数との関係を明らかにした報告は、現在までのところ殆んど見渡りません。シックハウス新法に規定化されている換気回数0.5回/hは、単に設計の段階で満たしていれば良いのです。本当に換気回数が0.5回/hを確保されているかの保証はないことを知っておいて下さい。
図4は、室内のVOC濃度と換気回数との関係を調べた数少ない貴重のデータです。新築住宅4棟を取上げて、換気回数を3通りに変化させた場合のホルムアルデヒドの濃度を調べたものです。調査対象としたいずれの住宅においても、換気システムを停止と、換気回数が0.3回/h程度の場合には、ホルムアルデヒドの濃度は、指針値を越えることが分かります。このように室内のVOCの濃度が指針値をオーバーした場合、換気回数が0.5回/hは、VOC濃度の低減化に対して極めて有効となります。
(a)新聞記事
換気回数 | 0.082回/時 |
VOCの濃度 | ホルムアルデヒド及びトルエンの指針値オーバー |
気密レベル | 水性合成塗料、自然系塗料 |
溶剤 | 0.53cm2/m2 |
(b)調査内容
図5 換気不足によるシックハウスを引き起こした事例
[その1] シックハウス症候群になった場合は、先ずその原因を突き止めなければなりません。自律神経失調症、花粉症、更年期障害やストレスからくる疾患などとも間違いやすいが、そのような原因や症状がなく、住宅を新築、増改築・購入した後に限って、シックハウス症候群の症状が出た場合は疑ってみる必要があります。原因を追究する具体的方法としては、以下のものが考えられます。
(ア)家に入るとシックハウス症候群の症状が現われるかどうか。
(イ)シックハウスの症状が現れるようになった時期は何時か。
(ウ)家の中に何らかの臭いがないか。
(エ)他に同じ症状の人はいないか。
(オ)VOCの測定を実施した結果はどうか。
(カ)換気回数0.5回/hが確保されているか。
(キ)施工業者に連絡・相談する。
(ア)換気システムの換気量をMAXにして稼動させる。
(イ)べークアウトを実施し、強制的にVOCの低減化を図る。
(ウ)VOCの吸着剤、分解剤、空気清浄機を用いてVOCを低減させる。
(ア)VOCの発生源を突き止めて、その部材を交換する。
(イ)換気量が不足している場合には、換気設備を交換する。
(ウ)VOCを測定し、その値が十分に低下するまでは避難する。
(エ)医療機関で受診する。受診先としては表4に示すものが考えられる
(オ)シックハウスに関する相談窓口に連絡する。窓口としては多くのものがある。例えば、都道府県の住宅センター、全国保健所、建材PL相談室、健康住宅相談コーナー、健康住宅普及協会等である。
症状 | 受診先 |
頭痛、吐き気 | 脳神経科、眼科、神経内科 |
めまい、耳鳴り、のどが痛い | 耳鼻咽喉科 |
目が疲れる、ぼける、 かすむ、乾く |
眼科 |
動悸、不整脈、息切れ、 |
内科および診療内科 |
生理不順、生理痛 | 婦人科 |
関節の痛み、腰の痛み、筋肉痛 | 整形外科 |
トイレが近い,排尿痛,残尿感 | 泌尿器科 |
表4 体調不良の場合の受診先