私からの発信〜「理事長コラム」3

家を建てる方が知っておいて
頂きたいシックハウス

〜その1・シックハウス問題は解決したのか?〜

1.はじめに

 新築あるいはリフォームした建物内の空気が原因となって引き起こされる様々な健康障害がシックハウス症候群として認知され、そしてシックハウス新法が平成15年7月に施行されてから早くも10年余が経過しょうとしています。その間に行政や業界でのシックハウスについての理解が深まり、対策が進んできています。その結果、国民生活センターに寄せられる相談件数も、シックハウス新法が施行された当初に較べて少なくなってきています。また、シックハウスに関するマスメディアでの報道も一時に較べてかなり少なくなりつつあります。その為に業界を含めた一般社会では、シックハウス問題は概ね解決したとの認識が広まりつつあることは否めないものも事実です。しかしながら、一方ではシックハウス問題は本当に解決しつつあるのか、対策は現状のままで十分であるのか、そして本当のところ現状はどうなっているのか等の疑問が多々あるのも事実です。
 このような実情に基づいて、今回の私のコラムは、「家を建てる方が知っておいて頂きたいシックハウス」と称して、現在のシックハウスの実情について発信をしたものです。これから家を建てられる方が万が一にも、シックハウスの被害に遭う事が無く、快適な住環境の基での豊かな生活を送る上での少しでも手助けになればとの思いに駆られて、発信しました。シックハウス症候群になってからでは遅いのです。シックハウス症候群にならないためには、私達はどうするかです。「転ばぬ先の杖」です。

 

2.シックハウス症候群

2.1 その症状は 
 WHO(世界保健機関)は、シックハウス症候群の症状として、以下に示すものを挙げています、これらの症状の一つ、または二つ以上が現れる場合をシックハウス症候群とされています。シックハウス症候群の症状は、頭痛や吐き気ばかりではなく、とくに多いのは慢性的な疲労感矢、思考力・注意力・意欲などの低下,イライラや睡眠障害で、いずれも更年期障害やうつ病、心身症などでよく見られるために、これらと誤解され易く、間違って判断される事が多いのです。新築・リフォーム後にこうした症状が現れた場合は、シックハウス症候群を疑ったほうがまず間違いがないと考えて良いと思います。
 

N0. 具体的な症状
目、鼻、のどの粘膜がチクチクする
唇などの粘膜が乾燥する
皮膚に紅斑(こうはん)、じんましん、しっしんがでる
 疲れやすい
5   頭痛がしたり、気道の病気に感染しやすい
息がつまる感じや、気道がぜいぜい音を出す
いろいろな刺激に敏感に反応する
めまい、はきけ、おうとを繰り返す

表1 シックハウス症候群の症状

 
2.2 シックハウス症候群と化学物質過敏症の違い 
 外出している時はなんでもないのに、家の中に居たり、ビルの中に入った時に、いつも上述した症状が現れる場合は、シックハウス症候群(Sick house syndrome)と言います。シックハウス症候群は、他の病気と区別できない症状が多いのは確かなのですが、見分けるポイントは、「家の中にいる場合に限って症状が出る」と言うことです。
 それに対して化学物質過敏症は、生活している環境の中に存在している有害な化学物質を微量に摂取することによって、自律神経・中枢神経を中心として、内分泌、免疫系などの多くの器官にいろいろな症状が現れる疾患を言います。化学物質過敏症になると、室内室外にかかわらず、タバコの煙り、香水のにおい、排気ガスなどの空気が汚れているところでは体がその化学物質に過敏に反応し、決まって体調が悪くなります。化学物質過敏症の原因は、最近遺伝子の面からも研究されていますが、明確なことは未だ不明です。ただ日本における化学物質過敏症の誘発は、最近の調査では図1に示すものとなっています。調査結果に示すように、シックハウス症候群が化学物質過敏症を誘発する場合が約60%と、かなり高いものとなっています。このようにシックハウス症候群は、化学物質過敏症の契機となるとの事をしっかりと心に留め置く必要があります。

 


図1 化学物質過敏症の原因

 
  このようにシックハウス症候群は、体調不良を引き起こしている建物から外へ出ると症状が軽減あるいは消失し、再び建物の中へ戻ると症状が再発します。つまり、建物内に何らかの汚染源が存在し、それを取り除くことによって対処することが可能です。しかしながら化学物質過敏症の場合には、症状の重さの程度や反応する化学物質に対する個人差によりますが、香水、化粧品、整髪料、たばこ煙、自動車排気ガス、ビニール製の配線など、多種多様の商品や化学物質に対して反応する場合があることから、逆に外出できないケースが多いのです。そのため、シックハウス症候群と比べて化学物質過敏症は対策が難しい事になります。また、シックハウス症候群も化学物質過敏症も、その発生のメカニズムが未解明であることから診断治療が難しく、正式には病気として認められておりません。そのため、体調不良を生じた生活環境の経緯や建物の状況や各種検査により、シックハウス症候群や化学物質過敏症と医師の判断で診断されても健康保険が適用されないのが現状です。
 更に、化学物質過敏症は、症状が重くなるにつれて、衣服や飲食物も含めた身の回りの多種多様な商品や化学物質に反応することから、そのような反応を示す人たちに対する周囲の理解が進まず、気のせいだと思われることが多いのが実状です。特に化学物質過敏症を訴える人たちは、外に出ても体調が思わしくないため仕事にでることが出来ず、さらに有害な化学物質の曝露を避けるために生活環境を改善しなければならないため生活面でさまざまな制約を受け、不安を抱えながら生活しています。また、化学物質過敏症を訴える子供たちの場合、新品の教科書のインクや塗り替え後の床のワックスに反応するため学校に通うことができず、学校で勉強したくても勉強できない子供たちもいるのです。
 シックハウス症候群や化学物質過敏症は、利便性や効率を追求した化学産業の発達の中で、化学物質のリスク評価が十分に行われないまま、生活環境中にさまざまな化学物質が入り込んできたことに対する重要な警告として受け止める必要があります。

 

3.シックハウス症候群に関する動向と最近の幾つかの事例

3.1 シックハウス症候群に関する動向
 図2は、「住宅品質確保法」、および「住宅瑕疵(かひ)担保履行法」に基づいて設立された住宅紛争処理支援センターに寄せられているシックハウスに関する相談件数を示したものです。シックハウス新法が施行された2003年では546件と最も多いが、その後急激に減少し、2009年以後では2003年に比べて約1/5程度となってはいるが、年間100件程度のシックハウスに関する相談が横ばい状態で寄せられている事が分かります。また図3は、一般消費者からの直接・間接(地方自治体の消費生活センターを通じて)消費生活に関する相談の受けることを目的として設立された独立行政法人国民生活センターに寄せられた、1997年から2008年までのシックハウスに関する相談件数を示したものです。相談件数は、2003年にピークを迎えているが、10年間でおおよそ250~600件の間を推移し、大きな変化はあまり見渡らない事が分かります。

 


図2 住宅紛争処理支援センターに寄せられたシックハウスに関する相談件数

 

 

図3 国民生活センターに寄せられたシックハウスに関する相談件数

 
  以上のべたシックハウスに関する相談は、「住宅紛争処理支援センター」、および「国民生活センター」の二つのセンターの窓口に寄せられたものであるが、その他に「住まい情報センター」、「住まいの専門相談機関」、「各都道府県にある建築住宅センター」等に寄せられた相談件数もかなり有るものと想定されます。このような相談件数から推察されるように、未だにシックハウス症候群に患い・悩む人々が数多くいることが分かります。このことから、シックハウス問題は概ね解決したとの流布は、極めて不謙遜なものであると言わざるを得ません。 
 このようにシックハウスに関する相談がここ数年、あまり減少していないのは、法規制の対象が事業者中心としたもので、消費者に主眼を置いた法規の策定が十分に行なわれていないことにも大きな要因であると考えられます。またホルムアルデヒドのみの対策、或いは天然素材の採用でシックハウス問題は解決できるという認識をもつ事業者が多々居るように、業界全体の認識度、および対応が極めて不十分であることがまた大きな要因であると考えられます。
 
 
3.2 シックハウス症候群に関する相談事例
 以下、シックハウス症候群に関しての相談センター寄せられた事例の幾つかを紹介します。

[相談事例1]  建売住宅を購入しました。引渡しも済み、本日、掃除や採寸のため室内で1時間程過ごしたのですが、鼻水が止まらなくなり、目の周りは蕁麻疹で腫れ上がり、涙も止まらない状態になりました。これはシックハウス症候群と考えて良いのでしょうか。元々、花粉症や軽いアレルギー症状はあったのですが、新築のお家に遊びに行ったりしても、このような症状が出たことはありません。また、小学生の娘がいるのですが喘息持ちなので、私にこのような症状がでるということは、娘にも出るのではないかと心配です。既に購入してしまった物件ですので、住むしかありません。今後の対策などについてアドバイスお願い致します。 

 
[相談事例 2]  新築の家に入るとシックハウスの症状が出ます。新築の最中にF4スターやノンホルムアルデヒドを明記した部材をチェックしました。F4スターは有害物質が0というわけではないですし、大きな部材はクリアしていても細部はどうであったか分かりません。いろんなものから少しずつ出る有害化学物質が充満しているのではないかと思います。「そんな家に住むな!」と言われればその通りかもしれませんが迷います。「ハウスメーカーを訴えろ!」と言われても、書類で見る限り勝算はありません。家族全員がシックハウスの症状があるわけではありませんので、一人だけ遅れて入居も考えていますが、建設的なアドバイスをお願いします。
 
[相談事例 3]  引越しして5年経ちます。3年ぐらい前からアトピー肌になり、だんだんひどくなってきました。原因がシックハウス症候群ではないかと疑っています。 子供が食物アレルギーなので、自分も一緒に受けました。陽性反応が出たのは、ハウスダスト、ダニ、スギです。毎日掃除機をしており、布団にも掃除機をかけています。お風呂は2週間に1回ペースでカビ掃除をしています。ですが、ひどくなる一方です。
 そこで疑ったのが、壁紙。5年前に改装されたアパートに住んでいます。そこに使っている接着剤の有機溶剤等が良くないのでは?と思うようになってきました。しかし、アレルゲン検査項目を見るとシックハウス症候群の項目も有機溶剤の項目もありません。自分の体質がそれに当てはまるのかどうかを調べたいのですが、どうやったら調べることができるでしょうか。

 
[相談事例 4]  シックハウス症候群について質問です。明後日新築住宅へ引っ越しをします。現在7か月の赤ちゃんがいるため、シックハウスが心配になり、部屋の引き渡し前に自分でパッシブ法で検査をしたところ、ホルムアルデヒドが250(0.20ppm)と指針値を大きく上回る結果となりました。アセトアルデヒドも少し高く、そのほかは大丈夫でした。検査時の気温が30℃で湿度が60%と揮発しやすい環境だったと思いますが、心配です。本当は入居しないことがいいのかもしれませんが、今のところシックハウス対策にと竹炭や備長炭シートを考えています。ベークアウトや換気などがいいと思いますが、それ以外に対策等ありますか?この250(0.20ppm)という値はやはり高い値なのでしょうか??個人差があるとはいえ、大人ならいいですが、赤ちゃんが心配です。知恵等あれば教えていただけると助かります。

[相談事例 5]  シックスクールで苦しんだ児童の親たちが地元議会あてに書いた手紙の写しがある。「子供に何度『学校に戻りたい。友達と一緒に過ごしたい』と言われ、涙を流したでしょう」「症状が出る子は転校すればよいのですか?」。8年前のものだが、今シックスクールと闘う親の声と全く同じだ。対策は進んだが、被害者の悩みは何も変わっていない。国はその事実に目を向けてほしい。 
 
[相談事例 6]  国民生活センター事故情報データバンクに基づいて、財団法人東京顕微強院瀬戸博氏が纏められたシックハウス症候群に関する幾つかの相談事例を紹介します。
 

  • 転居した住宅の全室をじゅうたん敷きにしたところ、妻と子供が口唇の腫れ,鼻血、食欲不振などの症状に襲われた。病院で診察を受けたところシックハウス症候群と診断された。(2012年3月)

  • 引越したマンションでシックハウスが発症し、常時頭痛、めまい、嘔吐が続居た為に、住むことが出来なくなった。(2011年9月)

  • 子供が新居を建てて入居したところ、シックハウス症候群になり、悪化して入院せざるを得なくなった。業者はシックハウス新法に適合した建材を使用しているから責任問題はないとしている。(2011年8月)

  • 一戸建て新築を新築し、入居したところ妻と息子にシックハウスが発症し、住むことが出来なくなった。臭いが消えるように対応すること業者に依頼した。(2011年7月)

  • シロアリ駆除を行なったところ、その日からシックハウスの症状が出た。作業に入る前に何らの説明もなかった。業者は説明義務があったのではないか。(2011年5月)

  • シックハウス対応というエコ商品のサイドボードを購入したところ、喉が痛くなるシックハウス症候群と思われる症状が出た。家具に対するVOCの基準は一体どうなっているかを知りたい。(2011年3月)

  • 現在自宅をリフォームしているが、タタミを入れた頃から頭痛し、気分も悪くなってきた。シックハウス症候群ではないかと思っている。調べる方法はないのだろうか。(2010年10月)

 
3.3 シックハウス症候群に関する相談事例
 以下、シックハウス症候群に関しての相談センター寄せられた事例の幾つかを紹介します。

[事例 1]  毎日新聞に2011年1月17日~19日の3日間に渡り、「消えないシックハウス」という記事が連載されました。シックハウス症候群に関しての最近問題となっていることを知る上で、かなり参考になると思いますので、簡単にまとめてご紹介したいと思います。

 
◆ 東京・永田町に1787億円を投じ、2010年7月に開館した衆参両院の議員会館において、議員や秘書が相次いで体調の異常を訴えた。民主党の福田衣里子衆議院議員は入居から数週間、会館に来ると首がかゆくなり、外に出ると落ち着いたという。同僚議員から「顔が赤い」とも言われた。「部屋が臭かったから窓開けはしていたが、最初はシックハウスとは気づかなかった」と振り返る。桜井充・同党参院議員は「ツンとする臭い」でめまいや頭痛を起こし、約1ヶ月半、会館にほとんど入れなかった。秘書の小林太一さんは「友人の秘書も頭がクラクラすると訴えていた。目が真っ赤になったり、涙が止まらないと話す人も。『なんとかしてくれ』と大勢の人に言われた」。医師でもある桜井氏は8月の参院予算委で問題を取り上げた。会館建築を所轄する前原誠司国土交通相(当時)は、「供用開始前に5物質の室内濃度の測定を行い、いずれも厚生労働省が定めた指針値以下であることが確認されている」と答弁している。
 その後東大大学院の柳沢幸雄教授は、この参院議員会館内の3室で、竣工1ヶ月後の8月にVOC濃度を測定したところ、確かに5物質は指針値を大幅に下回っていたが、VOCの総計(TVOC)が基準値400μgを大きくオーバーした902~2452μgであったことから、「シックハウスを起こすのに十分空気環境である」と判断した。TVOCは規制外の化学物質を含み、それらによってシックハウスを引き起こすことが当然考えられるが、成分分析やリスク評価が難しいため、実際の建築物では、ほとんど測定されていない。その為に住民や利用者がシックハウスの症状を訴えても、通常測定される5物質が指針値を下回っている場合には、原因が良く分からないと片付けられるケースが多いのが実情である。
 
◆ 岩手県南部の奥州市の市立胆沢第一小学校(児童415人)で2010年7月中旬~10月初め、校舎の使用が全面的に中止された。前年度からの大規模改修工事で、教室の壁や床など内装材を一新したが、体調不良を訴える児童が相次いだ。当時4年生の女児が、最初に頭痛を訴えたのが3月初め。工事から出る化学物質が原因との医師の診断書が提出され、翌4月には新4年の男児も、同様の症状を訴えた。市教委は大型扇風機などで換気を強化し、工事途中で接着剤の種類も替えた。だが、ホルムアルデヒド、トルエンなどの「特定測定物質」5物質の濃度を測っても国の指針値を超える値は出ず、原因は不明だった。その後も児童が相次いで体調を崩し、7月にようやく教室の使用が中止に。市長は市議会で陳謝した。結局、不調を訴えた児童は74人に上がり、22人がシックハウス症候群と診断された。診断を受けたある女児の父親は「娘は頭痛を抱えながらも通学し、重症化してしまった。しばらくは歩いて通えなかった」と話し、別の女児の母親は「子供はシャンプーでさえ、気分が悪くなった。だるい時は、周囲には怠けているように見えてしまい、つらい」と訴える。同市教委の及川敏幸・学校建設推進室長補佐は「シックスクールが起こるとは『まさか』という感じだった。国の基準をクリアした「F☆☆☆☆(エフ・フォースター)」規格の建材を使えば、問題は起きないと考えていた」と肩を落とす。
 F☆☆☆☆(エフ・フォースター)は、ホルムアルデヒド以外の化学物質とは無関係で、「建築関係者でもF☆☆☆☆さえ使えばシックハウス対策はOKと思っている人が多く、シックハウス問題が未だ十分に理解されていないかを如実に示しているものと言える。シックハウスの原因物質の多様化は、診断や治療も難しくしてしまう。宮田幹夫・北里大名誉教授は「最近はシックハウスの影響を示す眼球運動に異常が見られるのに、ホルムアルデヒドやトルエンの測定値には問題のないケースが大半である」という。「原因物質が不明でもシックハウスは起きていることを、社会が認める時期に来ている」と訴えている。


[事例 2]  2007年2月に北海道のA小学校で発生したシックスクール事例である。2006年11月に竣工し、同年12月に学校環境衛生基準の6種の化学物質について室内空気中濃度を測定したところ、すべて基準値以下であった。さらに、農薬・可塑剤を含む厚生労働省の指針値物質も基準値以下であった。2007年7月になって1-メチル-2-ピロリドンとテキサノールが高濃度に汚染しており、テキサノールは壁に使用された水性塗料に含まれていたことが判明した。その後、換気やベークアウト等の低減化対策により、これらの物質の室内空気中濃度は低下し、2008年4月に新校舎での授業が再開された。大きなニュースにこそなっていないが、一般の住宅でも、シックハウス症候群は発生している。これらのことから、国が規制した物質によるシックハウス症候群に加えて、未規制化学物質によって惹き起こされるシックハウス症候群があるということ、すなわち新しいタイプのシックハウス問題が浮かび上がっている。
 
[事例 3] 2010年4月のテレビや一般紙で報じられたように、札幌市の児童会館の床改修工事後、トルエンが指針値(0.07ppm)の24~26倍となっていることが明らかとなり、報道機関でも大きく取り上げられました。 この様に指針値の24~26倍もののトルエンが検出された背景の一つは、児童会館の担当職員のVOCに関する意識の希薄と、他の一つは、トルエンを含む接着剤や塗料製品を販売している建材メーカーのVOCに対する意識の低さによるものと考えられます。
 札幌市は2006年9月に『公共建築物シックハウス対策指針』を定め、その中で工事や大量の備品を入れ替えた後、ホルムアルデヒドを含む6種類の室内のVOCの濃度測定を義務付けを行っています。ただその中で、指針に例外が設けられ、小規模の改修工事では、①ホルムアルデヒドがゼロか微量(F☆☆☆☆の材料の使用)、②トルエン等に関しては、成分表などで含まれていないことを確認した場合の場合には測定をしなくても良いとしています。市の担当者は、その要領を誤って、F☆☆☆☆の材料を用いればVOCの測定を行わなくても良いと解釈したそうです。VOCに関する知識不足である、市の担当者が、このような間違いをすることは、当然有り得る話と思われます。ただ残念なことは、このようなF☆☆☆☆の材料を用いれば、VOCのすべてが指針値以下となると勘違いしているビルダーもまた、多くいることが否めないことも実情です。F☆☆☆☆の材料は、あくまでも、ホルムアルデヒドのみに関するもので、他のVOCには無関係です。現在、ホルムアルデヒドの代替としてアセトアルデヒドを含む、接着剤や塗料が多く使われています。その結果、ホルムアルデヒドと同じような人体への影響を及ぼすアセトアルデヒドが、指針値をオーバーする住宅が未だ多く建てられているのが実情です。
 もし、アセトアルデヒドに対しても、ホルムアルデヒドと同じような法的規制を設けたとしても、それに替わる人体への影響を及ぼすVOCが製造・販売されることになるものと想定されます。言い換えればVOCを含む材料の開発と使用に関しては、「イタチごっこ」なのです。その為に、室内のVOC濃度を測定することは不可欠であり、併せて行政もビルダーも室内のVOCに関して、より高い知識と関心が求められることになります。また、建材メーカー各社では、ノントルエンタイプの接着剤や塗料などが主流としているが、しかし今回のようにトルエンを含む製品も市場に出回っているのも否めないのも事実です。今回のようなことが住宅でも、起こりえる可能性は十分にあります。現在の建築基準法で規制する化学物質は、ホルムアルデヒドとクロルピリホスの二つだけです。トルエンやキシレン、アセトアルデヒドなどの人体への影響は、ホルムアルデヒドと同じであるとされているにも関わらず、未だに法律で規制されていません。今後ともその規制の動きは無いと考えられます。

[事例 4] 京都市内の改修直後のホテルの事務室で働いていた女性は、シックハウス症候群になり、換気設備の不備によるものとして、所属していた地域奉仕団体とホテル側を相手に治療費や慰謝料など1246万円を求める損害賠償訴訟を大阪地裁に起こした。訴訟によると、ホテルは2009年6月に窓のない倉庫に使用していた部屋をペンキを塗るなどをして改装した。改修後に奉仕団体が事務所として賃借りし、その事務所に女性は勤務していたが、吐き気や足先の痺れなどを覚えた。翌年にシックハウス症候群と診断され、訴訟を起こした。

 

4.シックハウス問題は解決していない

 最近の幾つかの相談事例や問題事例をあげたように、シックハウス問題は未だに解決していないのが実情です。表2は、2005年~2011年の7年間でシックハウス問題を取り上げた新聞、雑誌、およびテレビで取り上げられた件数を示したものです。
 

年度 新聞(件数) 雑誌(件数) テレビ(件数)
2005
2006 19
2007 15 16
2008 11
2009 45 12
2010
2011 10

表2 シックハウス問題を取り上げた新聞等の報道件数

 
 2010年は他の年度に較べて少ないが、ごく最近の2011年では新聞が10件、雑誌が5件、そしてテレビの放映が2件の総計17件と、依然として社会の関心は高いことが分かります。
 またシックハウス新法が施行された頃は、シックハウス症候群の診断が出来る医療機関は極めて限定されたものとなっていましたが、最近はシックハウス症候群を診断出来る医療機関が増え、気軽に受けることができるようになってきています。そのためにシックハウス症候群に悩んでいる人は、当初のように建築関係の相談窓口に行かず、直接医療機関で診察を受けるようになってきております。その結果、表面上は相談結果が少なくなっているように見えますが、実際はシックハウス症候群は一部でいわれているような顕著に減少してはいないものと想定されます。
 次回は、その2として「シックハウスに罹らないためにはどうすべきか」を取り上げたいと思います。