【日本VOC測定協会・技術シリーズ2】 2011.2.2

最近の測定例に基づく室内のVOCの現状

1.はじめに

 平成15年7月、シックハウス新法が施行されてから、本年で7年が経過しました。施行後の2、3年間は、業界はもとより、一般社会の関心もかなり高いものでした。しかし残念ながら、最近は業界も含めて、室内VOCに対する関心が極めて低いものとなっています。その為に一見、室内のVOC対策が急速に進み、シックハウス問題はほぼ解決されつつあると思われがちですが、実際にはシックハウス新法の施行後の室内のVOCに関しては、依然として多くの問題を抱えているのが実情です。それにもかかわらず、シックハウスに対する関心が薄くなりつつあるのは、以下に述べる理由によるものと考えられます。

  1. シックハウス新法の施行後は、それまでシックハウスの主たる要因であったホルムアルデヒドを含む建材の対策が図られた。その結果、ホルムアルデヒドはほとんど基準値以下となり、シックハウス問題は解決されたとの考えが一般化している。 
  2. シックハウス新法の施行後は、不十分ながらも室内の換気対策が図られ、それによって、室内に生じるVOCの低減化を図ことが出来るようになってきた。
  3. シックハウス新法の施行後のVOC濃度は、施行前のように基準値を数倍も超えるような事例が少なくなってきた。その為に、短時間でVOCの濃度が基準値以下となり、シックハウスと分かった時点では、VOCによるシックハウスと判断がする事が難しい。
  4. シックハウス新法に規定されている対策法が行われた場合には、万全であるという考えが一般化し、その為にシックハウス問題はほぼ解決されているという考えが極めて強くなってきている。
  5. シックハウス被害が社会問題となるとすると、工務店等の存亡の危機に晒される。そのために、隠蔽が通常化し、公に出にくい。中でも、保育所、幼稚園、小学校等の公共施設においては、公にされることはほとんどない。

 

 以上述べたように、シックハウス新法の施行によって、室内VOCによるシックハウス問題が解決し、その為に関心が薄くなってきたのではなく、単にシックハウス問題が発生しても、公に出にくい状況にあるだけと言っても過言ではない。この様な実情を踏まえて、本報告は、シックハウスを引き起こす室内VOCに関して、測定事例に基づいて、その問題点と対策について纏めたものです。

2.シックハウス新法施行後のVOC調査のまとめ

 今回紹介する室内VOCに関するデータは、平成18~21年の4年間における、全国エリアでのNPO法人日本VOC測定協会(理事長福井政義)によって調査されたものです。当協会によって調査された8種類のVOCについての濃度を、図1に示してあります。トルエンが18%、アセトアルデヒドが39%と、この2物質が断トツに厚生労働省が定めている指針値をオーバーしていることが分かります。平成15年のシックハウス新法の施行後においても、トルエンとアセトアルデヒドの指針値をオーバーする事例が多いことが、これまでの多くの調査よって報告されています。依然として、この2物質の濃度が指針値をオーバーする事例が多い事が立証されたことになります。トルエンおよびアセトアルデヒドの何れも、接着剤系の物質から放散されるもので、その使用量を含めて、今後その対策が極めて重要な課題であると言わざるを得ません。

 また図2は、北海道地域と本州地域における、アセトアルデヒドとトルエンに関して、指針値がオーバーするそれぞれの割合を示したものです。指針値のオーバーは、トルエンでは85%、アセトアルデヒドでは71%と、北海道地域に較べて本州地域の割合が圧倒的に大きいものとなっています。これは、本州地域での住宅の高断熱・高気密化に対する理解と、取り組みの姿勢が大きな要因であるものと考えられます。

3.指針値をオーバーした場合のVOC対策

 室内のVOC濃度が指針値をオーバーした場合の対策法は、建材等から自然に放散されるVOCを、換気システムを含めた強制換気によって、室外へ排出する方法と、室内の温度上げ、建材等のVOCを強制的に放散させて、室外へ排出させる方法との二通りの方法があります。前者を強制換気方式、後者をベイクアウト法と呼ばれています。以下、この二通りの方法について、具体的な対処法について説明します。

3-1 強制換気方式
 図3は、竣工時において、アセトアルデヒドの濃度が0.105ppmと、指針値(0.03ppm)の3.5倍と極めて高かった場合における、その濃度の経時変化を示したものです。この場合、ベイクアウトは行なわず、換気回数0.5回/hを有する排気型セントラル換気システム(第3種換気システム)を、常時運転させた場合でのアセトアルデヒド濃度の経時変化を示したのです。約4ヶ月後において、アセトアルデヒドは、指針値をクリアされている事が分かります。また指針値を2倍程度オーバーした他の事例でも、約3ヶ月程度で指針値以下となることが報告されています。これまでの検証から、例え室内のVOC濃度が指針値をオーバーしても、換気回数0.5回/hの規定の換気を行うことによって、大部分のVOCは、4~6月程度で指針値以下となるものと考えて良い事になります。

3-2 ベイクアウト法
 図4に示すように、室内のVOCを低減させる方法として、室温を上げることにより、建材等に含まれるVOCの発散を促進させる、いわゆるベイクアウト法があります。現在のところベイクアウトの期間と室温をどの程度にするかは、未だ明確には確立していません。ただ、一週間から10日間程度のベイクアウトの期間で、かなりVOCの軽減化には、有効であることが分かってきています。また、ベイクアウトの効果をより高くする為に、室温をあまり高くすると、内装材がはく離したり、建材が反ってしまったりすることがあります。室温を30℃~35℃程度とすることが一般的なようです。
 図5は、平成20年度に実施した5階建ての構造鉄筋コンクリート造りのキッチンハウスのショールームにおける、ホルムアルデヒドの測定結果を示したものです。最初の測定日である9月17日においては、ホルムアルデヒドの濃度は、0.706ppmと、指針値(0.080ppm)の約9倍と極めて高いものとなっていました。その後、室温30℃とし、約一週間程度継続させた、ベイクアウトを数回遂行したところ、約4ヶ月経過後でのホルムアルデヒドの濃度は、指針値を完全にクリアしています。このようにベイクアウト法は、かなりの高濃度のホルムアルデヒドに対しても、極めて有効な方法であることが分かります。なお、図4に示す高濃度のホルムアルデヒドの発散の要因は、パーテーションとして使用した建材からによる事が、種々の検証から判明しました。


4.室内VOC濃度に対する換気の役割

4-1 換気の有無による室内VOC濃度
 シックハウス新法においては、換気回数0.5回/hが確保される機械換気設備を設置することが義務付けされています。本節では、換気システムの稼動の有無によって、室内VOCがどのような様相を呈するものであるかを紹介します。図6は、新築時にホルムアルデヒド濃度が指針値をオーバーした住宅において、換気システムをON-OFFした場合のホルムアルデヒド濃度の変化を示したものです。換気システムをOFFにした時には、ホルムアルデヒド濃度が指針値をオーバーし、かつ増加し始めます。しかし換気システムを稼動させると、ホルムアルデヒド濃度は減少し、指針値以下の値となります。このように、換気しシステムは、室内COC濃度の低減化に対して、大きな役割を果たすことになります。

 図7は、同じく換気システムの稼動の有無による室内のVOCの濃度の測定結果を示したものです。図中に示した換気回数0回/hにおけるVOC濃度は、測定の対象とした洋室には、当初から換気システムが設置されていない時のものであり、換気回数0.54回/hのときのものは、その後1ヶ月後の換気システムを取り付けた時のものです。換気回数0回/hの時には、ホルムアルデヒドが0.054ppmであったものが、換気回数0.54回/hの時には約1/4の0.020ppmまでに減少し、指針値の1/4程度となっていることが分かります。またトルエンは、換気回数0回/hの時には、指針値の約1.71倍と極めて高いものとなっていましたが、換気回数0.54回/hの時には約1/5まで減少し、指針値の約2/5程度になっています。さらにアセトアルデヒドも換気回数0回/hの時には、指針値をオーバーしていますが、換気回数を0.54回/hとした1ヶ月後には、指針値の約50%近くも減少しています。この様に換気システムは、室内VOC濃度の軽減化に対して、極めて有効であることが分かります。


4-2 換気回数と室内VOC濃度
室内の換気に関しては、シックハウス新法では、つぎに示すものが規定化されています。

  1. 一般住宅においては,換気回数0.5回/h以上の能力を有する機械換気設備を設けるものとする。
  2. 冬季においては気密レベル2cm2/m2以下の住宅では換気回数0.4回/h,気密レベル2cm2/m2を超える住宅では、換気回数0.3回/h運転用スイッチを加えて設けることができる。 


 「i」に関しては、室内の炭酸ガスの許容濃度1000ppm以下に保持する上で、換気回数が0.5/hとすることが建築基準法施行令に定められているが、シックハウス新法における「i」の換気回数0.5回/hも、これに準拠して定められたものと考えられます。この換気回数0.5回/hに関しては、その能力を有する機械換気設備を設けるものであって、換気回数0.5回/hが確保されているかどうかの検証は、義務付けされていないのが最大の欠点であり、盲点となっています。その為に、実際には換気回数0.5回/hが確保されていない、壁付きパイプファン等のものが市場で大手を振ってまかり通っているわけです。その面で換気回数に関するシックハウス新法は、ザル法であり、悪法と言わざるを得ません。
 ただ残念ながら、シックハウス新法が施行されてから、7年を経過していますが、室内のVOC濃度と換気回数との関係を明にした報告は、現在までのところ殆んどありません。その為にシックハウス新法に規定化されている換気回数0.5回/hは、単に設計の段階で満たしていれば良いという認識が一般しているのが実情的あると言わざるを得ません。以下数少ないデータの中から、室内のVOC濃度と換気回数との関係を紹介し、室内VOCの低減化を図る上では、換気回数0.5回/hは必要不可欠であることを明らかにしたいと思います。
 図8は新築住宅4棟を取上げて、換気回数を三通りに変化させた場合のホルムアルデヒドの濃度を調べたものです。調査対象としたいずれの住宅においても、換気システムを停止と、換気回数が0.3回/h程度の場合には、ホルムアルデヒドの濃度は、指針値を越えることが分かります。さらに図9は、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、及びp-ジクロロベンゼンの4種類のVOCに対しての換気回数を変化させた場合での濃度の変化を調べたものです。換気回数が0と0.3回/h程度の場合には、VOCの濃度は指針値をオーバーしているが、換気回数が0.5回/h程度の場合には,指針値以下となる事が分かります。このように室内のVOCの濃度が指針値をオーバーした場合、換気回数が0.5回/hは、VOC濃度の低減化に対して極めて有効であることが分かります。


4-3 化学物質過敏症患者と換気回数
 つぎに図10は、居住者が入居後シックハウス症候群と診断され、その後化学物質過敏症と再度診断された患者の新築住宅のVOC濃度を示したものです。測定された6物質のうち、アセトアルデヒドのみが指針値を大きくオーバーし、指針値の約3.4倍というかなり高いものとなっていました。また換気回数は0.27回/hで、且つ換気経路はショートサーキットをしており、計画換気とは程遠いものとなっていました。患者は、かなりの重症者であったことから、VOC濃度を出来るだけ短期間で大幅に低減化させる為に、その後換気回数を最大1.46回/hとなる換気システムに改良・改修しました。換気システムの改修1ヶ月後、再度測定したところ、アセトアルデヒドは、約1/8に減少し、指針値の半分以下とすることが出来ました。
 しかしながら、その後換気回数が1.46回/hと換気量を大幅にアップさせた後、図10に示すように、VOC濃度が指針値の約1/6~1/2に減少したのにも拘らず、患者は体調悪化を訴えていられていました。このように、一度化学物質過敏症になった患者にとっては、発症しないレベルは、一体どの程度のレベルの濃度なのかについては個人差がある為に、現在のところ残念ながら定かではありません。言えることは、本患者のように、不幸にもシックハウスからシックハウス症候群へと、そして更に進んで化学物質過敏症患者へと移行しますと、その回復には指針値の1/10以下となる極めて低レベルのVOC濃度を有する居住環境と、かなりの時間が必要とされるもと思われます。
 このような不幸な患者を出さない為にも、建築業者は建材類の一層の吟味と換気計画が正しく設計・施工され、確認作業である適正な測定が求められます。

5.室内CO2濃度と換気回数

5-1 CO2濃度と必要換気回数との関係
 シックハウス新法で定められている必要換気回数0.5回/hは、室内の炭酸ガス濃度を基本として定められたものです。この必要換気回数の評価に当たっては、つぎに示す条件の基に行われています。

  1. 人間が事務作業程度の活動においては、一人当たり0.02m3/hなる炭酸ガスを発生する。
  2. 安静時においては、一人当たり0.013m3/hなる炭酸ガスを発生する。 
  3. 室内の炭酸ガスの許容濃度を1000ppmとする。
  4. 室外の新鮮空気の炭酸ガスを350ppmとする。


 かかる条件の基での必要新鮮空気量は、次式によって評価されます。

 
ここで、この式の各符号は、つぎに定義されるものです
M:発生する炭酸ガスの量
C:炭酸ガスの許容濃度
C0:新鮮空気の炭酸ガスの濃度

 したがって、必要新鮮空気量Qは、軽作業時では
となり、安静時では次のようになります。
 

 つぎに、この様に評価された一人当たりの必要新鮮空気量に基づいて、換気回数を求めると、以下に示すものとなります。すなわち、一人当たりの必要新鮮空気量を30m3/h、家族数を4人、そして住宅の建坪を30坪とすると、必要換気量は120m3/hとなり、かつ住宅の気積240m3となることから、換気回数はつぎのようになります。

 ただ、室内の炭酸ガス濃度を基準とした場合には、居住者の人数が多くなると必要換気回数は大きくなり、逆に居住者が少なくなると必要換気回数は小さくなります。このように、室内の炭酸ガス濃度を基準とすると、居住者の人数や住宅の大きさによって、必要換気回数は変化することになります。その為に、色々と想定される要件を考慮して、適切な換気回数を定める事は極めて難しいことから、大まかに必要換気回数を0.5(回/h)と定めたものと思われます。ただ、色々と問題があるシックハウス新法で定められた換気回数0.5(回/h)は、現状では当然ながら遵守しなければなりません。


5-2 換気システムの稼動の有無による室内CO2濃度
 図11は、寝室の安静時に必要される新鮮空気量20m3/hが給気される換気システムを稼動させた場合と、停止させた場合の炭酸ガス濃度の測定結果を示したものです。いずれも測定期間は、3日間としてあります。換気システムが稼動させた場合には、寝室の炭酸ガスの濃度は、基準値の1000ppmの1/2程度となる500ppm前後の値で遷移しており、炭酸ガスのみに注目すると、極めて良好な室内の空気環境が実現している事がわかります。
 一方、換気システムを停止した場合には、炭酸ガス濃度は午前1時過ぎを越えると、急激に増大し、午前6時頃には2000ppmを超えるものとなり、基準値の1000ppmの2倍以上の値となっています。このように換気システムは、炭酸ガスの濃度の低減化に対して極めて有効であることが分かります。


5-3 換気回数の違いによる室内のCO2濃度
 図12は換気回数を0.5回/hとした場合での居間におけるCO2の濃度を示したものです。同じく図13は、換気回数を0.3回/hとした場合での寝室におけるCO2の濃度を示したものです。換気回数が0.5回/hでは、炭酸ガスの濃度は基準値以下となっているが、換気回数が0.3回/hには、基準値を超える時がしばしば生じています。このことから、室内のCO2の濃度を基準値以下に保持する為には、換気回数が0.5回/h程度が必要であると判断されます。


6.シックハウスに関するいくつかの事例

6-1 換気量不足によって発生したシックハウスの事例
 図14は、2004年に起きたシックハウス提訴の新聞の報道の事例を示したものです。新聞で報道されたように、新築住宅に入居直後から体調不良が続き、旭川医大付属病院でシックハウス症候群と診断された。その後、某調査期間によって、シックハウス新法に規定されている、つぎの二点について調査されました。なお調査は、新築後1年経過してから行われました。

  1. 換気システムの換気量(換気回数)の調査 
  2. VOC濃度の調査(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、パラジクロロベンゼン、テトラデカンの8物質)


 その結果、調査内容に示すように、換気回数は0.082回/hであることから、換気量はほとんどゼロに近いものとなっていました。また室内VOCに関しては、ホルムアルデヒドとトルエンの2物質が基準値をオーバーしていました。
 一般に室内VOC濃度が新築時に基準値をオーバーしても、0.5回/hの換気回数が確保されていれば、大部分は築4~6ヶ月で基準値以下となることがこれまでの多くの調査で明らかにされています。この事例のように築1年後においても、VOCが基準値をオーバーしているのは、換気が殆んど行われていない事によることと、新築時ではVOC濃度は基準値をかなりオーバーしていたものと想定されます。


換気回数 0.082回/h
VOCの濃度 ホルムアルデヒドおよびトルエンの指針値オーバー
気密レベル 0.53cm2/m2


6-2 公共施設におけるシックハウスの事例
 本年(2010年)の4月のテレビや一般紙で報じられたように、札幌市の児童会館の床改修工事後、トルエンが指針値(0.07ppm)の24~26倍となっていることが明らかとなり、図15、及び図16に示すように報道機関でも大きく取り上げられました。問題となった経緯を纏めると、以下の通りです。

  1. 本年3月22日に当該児童会館のプレイルームの床材を、ジュウタンからコルク床に改修する工事を行った。
  2. 3月23日から一般開放したところ、職員の一人が体調不良を訴え、アレルギーと診断される。
  3. また当初、体調不良を訴えた児童らは45名であったが、その後4月15日の最終的調査においては、体調不良を訴えた児童らは114名に達することが分かった。
  4. 4月3日から休館し、9日に床をタイルカーペットにする工事を実施し、VOCの測定を行った結果、トルエンの濃度が指針値以下であることが確認された。 

 この様に指針値の24~26倍もののトルエンが検出された背景の一つは、児童会館の担当職員のVOCに関する意識の希薄と、他の一つは、トルエンを含む接着剤や塗料製品を販売している建材メーカーのVOCに対する意識の低さによるものと考えられます。札幌市は2006年9月に『公共建築物シックハウス対策指針』を定め、その中で工事や大量の備品を入れ替えた後、ホルムアルデヒドを含む6種類の室内のVOCの濃度測定を義務付けを行っています。ただその中で、指針に例外が設けられ、小規模の改修工事では、

①ホルムアルデヒドがゼロか微量(F☆☆☆☆の材料の使用)
②トルエン等に関しては、成分表などで含まれていないことを確認した場合

以上の場合は測定をしなくても良いとしています。
 市の担当者は、その要領を誤って、F☆☆☆☆の材料を用いれば、VOCの測定を行わなくても良いと解釈したそうです。VOCに関する知識不足である、市の担当者が、このような間違いをすることは、当然有り得る話と思われます。ただ残念なことは、このようなF☆☆☆☆の材料を用いれば、VOCのすべてが指針値以下となると勘違いしているビルダーもまた、多くいることが否めないことも実情です。

 F☆☆☆☆の材料は、あくまでも、ホルムアルデヒドのみに関するもので、他のVOCには無関係です。現在、ホルムアルデヒドの代替としてアセトアルデヒドを含む、接着剤や塗料が多く使われています。その結果、ホルムアルデヒドと同じような人体への影響を及ぼすアセトアルデヒドが、指針値をオーバーする住宅が未だ多く建てられているのが実情です。
 もし、アセトアルデヒドに対しても、ホルムアルデヒドと同じような法的規制を設けたとしても、それに替わる人体への影響を及ぼすVOCが製造・販売されることになるものと想定されます。言い換えればVOCを含む材料の開発と使用に関しては、「イタチごっこ」なのです。その為に、室内のVOC濃度を測定することは不可欠であり、併せて行政もビルダーも室内のVOCに関して、より高い知識と関心が求められることになります。また、併せて例えVOCの濃度が指針値をオーバーしても、その削減は既に述べたように比較的簡単です。ですから元となるVOCに関する測定データが必要となるのです。
 また、建材メーカー各社では、ノントルエンタイプの接着剤や塗料などが主流としているが、しかし今回のようにトルエンを含む製品も市場に出回っているのも否めないのも事実です。今回のようなことが住宅でも、起こりえる可能性は十分にあります。
 現在の建築基準法で規制する化学物質は、ホルムアルデヒドとクロルピリホスの二つだけです。トルエンやキシレン、アセトアルデヒドなどは、人体への影響は、ホルムアルデヒドと同じであるとされているにも関わらず、未だに法律で規制されていません。今後ともその規制の動きは無いと考えられます。


7.まとめ

 シックハウス新法施行後における室内VOCに関して、北見工業大学坂本研究室と日本VOC測定協会の調査データに基づいて纏めました。シックハウスに関しては、平成15年の法律の施行当時に比べ、かなり関心は薄くなっています。一見シックハウス問題は解決し、過去の問題のようになった感もあります。これは、ただ単に色々な実情によって公にされていないだけなのです。また例えシックハウス症候の患者と認定されても、当人の辛さは他人には殆んど分らず、多くは無関心なだけです。これが公に出てこない最大の理由と考えます。
 シックハウスを防ぐには、つぎの事が基本です。

    1. シックハウス新法で規制化されている、換気回数0.5回/hの能力のある換気システムの設置を徹底する。合わせて換気量の検証をすべての住宅で実施する。
    2. すべての住宅においてVOCの測定を実施する。
    3. 例えVOCの濃度が指針値をオーバーしても、その低減化は比較的容易であることから、その方法に基づいて遂行する。隠蔽することは最も危険である。


  家を建てもらう人も、建てる人も今一度シックハウス問題に関心を持つことが求められています。万が一シックハウス症候の患者となった場合には、有効な治療法は無く、その回復は容易ではないのが実情です。そして回復には長い時間が必要とされます。そうなる前にシックハウスは、防ぐことが出来ます。