【日本VOC測定協会・技術シリーズ3】 2013.2.2

アクティブ法とパッシブ法の違いは

1.はじめに

平成15年7月にシックハウス新法が施行されてから、10年を経過しょうとしています。また、私共の日本VOC測定協会がVOCの測定・分析事業を開始してから、5年余が経過しようとしています。これまで行なってきた私共のVOCの測定結果に基づいて、特筆すべきことを纏めてみますと、以下の点のようになるのではないと考えます。
 
 (1)シックハウス新法の制定の契機となったホルムアルデヒドは、施行後においては厚生労働省が定めた指針値をオーバーする事例はほとんど無くなり、制定されたシックハウス新法の最大の成果であると評価出来る。
 (2)接着剤や溶剤に用いられるトルエンは、依然として指針値をオーバーする事例が多々ある。
 (3)接着剤等に含まれるアセトアルデヒドは、厚生労働省が定めている0.03ppmなる指針値を超える事例が、全測定件数の35%を超える極めて高いものとなっている。
 (4)厚生労働省の定めた指針値をオーバーしたアセトアルデヒドの測定結果の大部分は、0.03~0.1ppmの範囲にあり、大部分はWHOが定めている0.17ppmよりもかなり低いものとなっている。
 (5)厚生労働省の定めた指針値0.03ppmは、WHOのそれよりもかなり厳しいものとなっている。その為にアセトアルデヒドが指針値をオーバーする事例が他のVOCに較べて極めて高い。厚生労働省の定めた指針値0.03ppmの再検討の必要があると考えられる。
 (6)シックハウス新法が施行された当初においては、シックハウス症候群の認定は、極限られた医療機関でしか行なわれなかったが、最近は多くの医療機関においてもその認定が行なわれるようになってきている。

 このようにシックハウスに関しては、未だ幾つかの問題を抱えているが、業界はもとより、一般社会においてもその重要性は定着しつつあります。その為に、より快適な室内の空気環境の創生と、居住者に安心感を持ってもらうために、室内のVOCの測定に対する関心を更に高める必要があります。
 室内のVOCの測定に関しては、厚生労働省が定めた「室内空気測定のガイドライン」において、アクティブ法が標準的な方法として定められています。しかしアクティブ法は測定に要する時間と費用の両面から、比較的低価格で、かつ短時間で対応出来るパッシブ法を用いられる事が多いのが実情です。また厚生労働省は、パッシブ法に関してもVOCの測定方法として認めています。このようにVOCの測定として、アクティブ法とパッシブ法の二つがそれぞれ用いられていますが、両者にどのような違いがあるかを明らかにしたものが本技術シリーズです。

2.アクティブ法 

2-1 アクティブ法とは
 アクティブ法は、図1に示すように、吸引ポンプを用いて室内の一定量の空気を吸引し、吸引入り口に取り付けた捕集管で採集するものです。捕集に当たっては、アルデヒド類( ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒド)はDNPHサンプラー、VOC類(トルエン、スチレン、キシレン、エチルベンゼン、パラジクロロベンゼン等)は吸着剤を充填した捕集管をそれぞれ用います。 DNPHサンプラーは再使用が出来ませんが、VOCの捕集管は専用機器を用いて、「から焼き」をすることによって、何度も再使用が出来ます。具体的な測定は、表1に手順に基づいて行なう事が標準となっています。午後2~3時の間に測定を実施するのは、この時間帯でのVOCの放散が最も高くなることによるものです。ですから、アクティブ法は、室内のVOCが最大となる場合の量を評価することになります。

時刻 工程内容
8:30 室内換気を行なう。(戸、窓、扉をすべて開放する)
9:00 室内の換気を完了する。
9:00~14:00 室内空気環境の維持し(戸、窓、扉等を締め切り、5時間維持する)、その間の13:30頃から測定の準備を開始する。
14:00 測定を開始する。(30分程度の測定を2回実施する)。
15:00 測定を終了する。

表1 測定の基本手順


2-2 アクティブ法の長所と短所
 アクティブ法は、厚生労働省が定めた「室内空気測定のガイドライン」において、標準的な方法として選定されています。アクティブ法の利点は、以下のものとなります。
 (1)VOCの濃度は、空気の単位体積1m3当たりVOCの体積(m3)、あるいは重さ(μg)で表されます。 従って、正確に一定流量の室内の空気の吸引が可能であるアクティブ法は、測定された結果に対する信頼性が高い。
 (2)VOCの測定は、原則的にはVOC測定士の資格を有する専門者が行なうことが原則であることから、測定面からも信頼性が高い。
 (3)VOCの放散が最も活発に行なわれると考えられる午後2~3時の時間帯で測定が行なわれるために、人体に影響を与えるVOCの最大濃度の測定が可能となる。
 (4)測定はVOC測定士の資格を有するものが行なう為に、測定が有料で、かつ吸引ポンプ等の測定機器が必要であることから、測定費用が高くなる欠点を有する。

3.パッシブ法 

3-1 パッシブ法とは
 パッシブ法は、VOCを捕獲する専用のサンプラーを図2に示すように、室内に吊るして、測定するものです。具体的には、図3に示すように、アルデヒド捕集管とVOC捕集管を測定する室内に取り付けて行います。アクティブ法とパッシブ法の最大の違い は、アクティブ法では30分、パッシブ法では24時間なる測定時間が大幅に異なることです。その結果、アクティブ法ではVOCの最大濃度、パッシブ法では平均的濃度の測定となります。

 

3.2 パッシブ法の長所と短所
 パッシブ法は、「日本住宅性能表示基準」、及び「評価方法基準」に定められているもので、厚生労働省が定めた「室内空気測定のガイドライン」において、標準的な方法として選定されているものではありませんが、アクティブ法の代替法として認められています。パッシブ法の長所としては、以下のものが考えられます。
 (1)サンプラーは室内に吊るす形で取り付け、24時間後回収すれば良い事から、自主測定が出来るために、測定費用が安価で済む。
 (2)特別な測定機器の設置が不要である為に、住宅内の複数個所の同時測定が出来る。
 (3)測定されたVOCの濃度は、24時間当たりの平均値であり、最大濃度の測定が出来ない。そのために測定されたVOC濃度は、アクティブ法に較べて一般的に低くなる。

4.アクティブ法とパッシブ法による測定結果の比較

 アクティブ法とパッシブ法の最大の相違は、アクティブ法ではVOCの最大濃度の評価であり、パッシブ法はVOC濃度の昼夜の平均値の評価であることです。特に昼夜での室内の温度差が大きい機関では、昼と夜ではVOCの放散量が異なる為に、両者の測定値において大きな違いを生み出す危険性があるものと考えられます。
 図4と図5は、昼夜での室内の温度差が比較的大きいと考えられる、北海道札幌市での新築住宅における夏季での7月1日において、アクティブ法とパッシブ法の両方で測定されたVOCの分析結果を示したものです。アクティブ法での測定結果では、トルエンと、アセトアルデヒドが幾分指針値をオーバーしているが、パッシブ法ではトルエンとアセトアルデヒドを含む、いずれのVOCも指針値以下となっています。アクティブ法とパッシブ法で測定されたVOCの測定結果を比較した事例は、極めて少ない為に断定は出来ないが、両者での測定結果において、かなりの違いが生じるものと思われます。とくに、昼夜での室内の温度差が大きいと考えられる時期での測定では、両者に違いがでるものと考えられます。シックハウスは、VOCの短時間の暴露でも発症する危険性があるとされていることから、室内のVOCの最大濃度を測定するアクティブ法を出きる限り採用すべきであると言えます。


5.VOCの簡易測定器の有効性

 VOCの測定に当たっては、多くの簡易型の測定機器が販売され、使用されています。その中の大部分は、TVOC(総揮発性有機化合物)と、HCHO(ホルムアルデヒド)の測定ができるものであり、他のVOCの測定は現在のところほとんど出来ません。表2に簡易型VOC測定器を纏めて示してあります。

汚染源 測定原理 メーカー等
TVOC FID バーキンエルマー、島津
熱線半導体 新コスモス電機
光音響 B&K(松下インターテクノ)
イオン化 バーキンエルマー、日本電子
HCHO 検知管 公明理化学、ガステック
検知紙 ドレーゲル
定電位電解 新コスモス電機、オービス
化学発光 ファームテック
吸収/吸光光度 島津、DKK
検知紙/光電光度 理研計器

表2 販売されている簡易型VOC測定器

 それでは、簡易型VOC測定器の測定精度はどの程度のものとなっているかを示したものが図6です。図6示すように、例えばアクティブ法で測定されたホルムアルデヒド(分析は図7に示すHPLC,すなわち高速液体クロマトグラフで行なう)が60ppbの時の、簡易型ホルムアルデヒドの測定器での値は38ppbであり、112ppbの時では42ppbとかなりの違いがあることが分かります。厚生労働省が出していますホルムアルデヒドの指針値は80ppbですが、例えば測定値が79ppbであれば問題はないが、81ppbでは指針値をオーバーすることから、居住者は不安を抱くことになります。図6に示すように、簡易型ホルムアルデヒドの測定器での値は、アクティブ法で測定したものの最大で3倍程度の差異があることから、指針値をクリアーしているか、あるいはオーバーしているかの判断には先ず使えないと考えるべきです。簡易型VOC測定器は、あくまでもVOCの有無の目安しかないことを、使用者は理解しておく必要があります。