【日本VOC測定協会・技術シリーズ4】 2013.11.24

電車内のVOCの測定方法についての一提案

1.はじめに

 最近住宅と同様に、人々が多くの時間を過ごす自動車の車室や、電車等の車内のVOC問題が注目されつつあります。そのような中で、日本自動車工業会では、住宅とは異なる自動車の使われ方や環境を考慮した「車室内VOC試験法」と、「車室内VOC低減に対する自主取り組み」を策定し、今後車室内のVOC問題を積極的に取扱って行く方針を定め、進めています。一方、電車等の車内のVOCに関しての測定事例はほとんど皆無です。
 その中で、ごく最近、当協会で始めて、電車内のVOCの測定を実施いたしました。しかしながら、現在のところ電車等の車内のVOCの測定方法は確立されておらず、その為に実施した電車内のVOCの測定は、建物のそれに準じた形で行なわれました。本技術シリーズは、私共が実施した電車内のVOCの測定法を紹介し、併せて今後の「列車車内VOC試験法」の確立に当たっての参考資料となることを強く望むものです。

2.日本自動車工業会が定めた「車室内VOC試験法」 

表1は、VOCに関しての建物の測定法と、日本自動車工業会が定めた自動車における「車室内VOC試験法」に基づくそれとを比較して示したものです。自動車におけるVOCの測定方法が、建物の場合のそれとの大きな違いは、以下に示すものとなります。

 (1)自動車の車室内のVOCは、試験室内の空気質に支配されるために、試験室内の空気質の測定が必要とする。それに対して建物の場合は外部全体が試験室であると考えられることから、外気のVOCの濃度の測定は必要としない。
 (2)VOCの放散は温度に強く支配される。夏季での自動車の車室内の温度はかなり高温となることから、その為に、厳しい温度設定が求められる。それに対して建物の場合は、室温がさほど高くなる事がないことから、室内の温度設定は求められていない。しかし本来的には、最も高くなる室温に準じた温度設定でのVOCの測定を行なう必要があるものと考えられる。
 (3)エンジン及びエアコンを始動させた乗車モードでの車室内は、排気ガス等の影響を受ける為に、その条件下でのVOCの評価が必要となる。すなわち、自動車では、三段階でのVOCの測定が義務付けられている。

 
ステージ 自動車 建物

第1ステージ
(プレコンディション)

①試験室内を十分に換気し、室温は 23±2℃に保持する。
② 試験室に車両を搬入し、車両内の空気質が試験室内のものと同じくするために、全てのドアを開放し、30分以上放置する。
③ 30分以上経過後、試験室内の空気を捕集する。
①窓、戸、扉を全て開放し、30分室内の換気を行い、外気の空気質と同じくする。
②外気にはVOCは含まれないものとして、外気の測定は実施していない
第2ステージ 
(密閉放置モード)
①試験室、および車室を密閉し、車室内の温度を40±2℃まで上昇させる。
②所定の温度に達した時から4.5時間経過後車室内の空気を採集する。
①外気に面した窓及び扉等の開口部を閉鎖する。換気システムは稼動させる。 
②5時間経過後室内の空気を採集する。
第3ステージ 
(乗車モード)
①走行中の車室内の空気質の測定を行なうもので、エンジン及びエアコンを始動させる。
②試験室及び車室内の空気を採集する。

表1 自動車と建物におけるVOCの測定方法の比較

3.電車の車内のVOCの測定方法 

 電車の車内のVOCの測定は、以下の事項によって、建物のVOCの測定にほぼ準ずることが出来るものと考えられます。

 (1)電車の外側の環境は建物と同じように外気となることから、車のように試験室内(外気が相当)でのVOCの評価を行なう必要はない。
 (2)夏季での車内は建物の場合と同様に冷房空調されていることから、VOCの放散が最も多くなる温度は建物と同程度となると考えられる。したがって、VOCの測定時での車内の温度を設定する必要はない。
 (3)使用時の車内は、建物の場合と同様にエアコン等で空調されていることから、建物の場合と同じような換気環境であると考えてよい。


 上述したこれらのことに立脚して、電車内のVOCの測定に当たっては、本協会では建物のVOCの測定方法に準じた、次の方法で行なう事を提案するものです。また本方法は、今後の電車のVOCの測定に当たっての一つの指針となるものと考えています。それでは、以下具体的は電車の車内のVOCの測定手順を述べるものとします。

 (1)30分間、電車のドアや開口部を開放し、車内の換気を行い、車内を外気と同じ空気環境とする。
 (2)(1)の状態の終了後、電車のドアや開口部を閉鎖する。エアコン等の空調機は稼動させる。
 (3)(2)の状態で5時間経過後、車内の空気の採取を行なう。
 (4)車内の空気の採取に当たっては、建物の場合に準じた形で実施する。すなわち、採取する空気流量、および採取回数は、建物の場合と同じとする。
 (5)採取場所は、乗客がシートに座った状態での乗客の口元付近とする。
 (6)建物の場合と同様に、車外と車内の温度、ならびに採取時間を記録する。
 (7)採取した試料の取り扱いは、建物の場合と同じとする。