1.はじめに
日本VOC 測定協会が2007年3月9日に設立され、全国の各地で、第1回及び第2回のVOC 測定士認定講習・試験が行なわれた。更に、第3回のVOC測定士認定講習・試験が2009年の1月から3月に渡って、行なわれる予定となっている。
一方、当協会のもう一つの事業である、VOC の測定・分析が設立と同時に開始された。2007年度は31件、2008年度(10月現在)の14件の合計45件のVOC の測定・分析が行なわれた。
本報告は、これまで測定・分析された45件のVOC に関して、次に述べる事項を主体に纏め・総括したものである。
(1)測定されたVOC の県別の件数
(2)VOC を測定した住宅の気密レベルの区分
(3)設置されている換気システムの分類
(4)VOC を採取した居室の分類
(5)測定されたVOC の濃度の分類
2.県別のVOCの測定件数
VOC 測定士認定講習・試験は、札幌、仙台、東京、名古屋、及び大阪の5箇所で実施され、当協会は、ほぼ全国的規模で、VOC 測定士の育成を図っている。今後の当協会の発展的展開を考えると、認定を受けた測定士が、どのような地域で、VOC 測定の活動を行なっているかを知ることは、重要な意味を持つことになる。
図1および図2は、2007年度と2008年度(10月まで)における、県別のVOC測定件数を示したものである。これらの結果に基づいて総括すると、以下に示すものとなる。
(1)2007年度での測定件数は、北海道北網圏が10件、岐阜県が8件と二つの地域で全体の約6割弱を占めている。これは当該地域での本協会の役員の積極的な宣伝活動によるものと思われる。このことから、今後の当協会の発展的展開を図る上で、各地域での宣伝活動は、キーポイントになる。
(2)北海道では、札幌圏での測定件数が北網圏に較べて少ない。測定件数の増加を図る上では、今後の札幌圏での宣伝活動が不可欠である。
(3)東北圏での測定件数は皆無である。本年は、VOC 測定士認定講習・試験も行われることから、その機会を生かして積極的な宣伝活動を行なうべきと考える。
3.VOCを測定した住宅の気密レベルの区分
図3の左図に、VOC を測定した住宅の検体の気密レベルを示してある。気密レベルが1 cm2/m2 以下の住宅が80%と、気密レベルの高い住宅が測定対象となっている。このことから、高断熱・高気密住宅を建てている工務店は、住宅の空気環境に対しても、極めて関心が高いものと思われる。
4.VOCを測定した住宅の換気システムの区分
図3の右図に、VOC を測定した住宅に採用されている、換気システムを示してある。第3種換気システムは、不明の分を考慮すると、90%を越え、圧倒的に多い。その一つの理由としては、シックハウス新法に定められている、必要換気回数0.5 回/h の確保が、第3種換気が他の換気システムに比べて、比較的容易であることも、一つの要因であるものと思われる。
5.VOCを採取した居室の分類
図4 に、VOC を測定した住宅の居室の分類を示してある。ダイニングを含めたリビングが、80%を越え、居住者にとっては、日常の生活場の空気環境に対して、極めて関心が高いことが汲み取れる。各居室の必要換気量が確保されていれば、どの居室のVOC も、リビングのそれと同程度になることが、これまでの多くの測定例で立証されていることを考えると、今後もリビングを主体にVOC の測定を行なうことには、全く問題は無いものと判断される。
6.測定されたVOCの濃度の分類
図5に、測定された8種類のVOC についての濃度を示してある。トルエンが21%、アセトアルデヒドが42%と、厚生労働省が定めている指針値をオーバーしている。平成15年のシックハウス新法の施行後においても、トルエンとアセトアルデヒドの指針値をオーバーする事例が多いことが、何人かの研究者によって報告されている。依然として、この2物質の濃度が指針値をオーバーする事例が多い事が立証されたことになる。何れも接着剤系の物質から放散されるもので、使用量を含めて、今後その対処法が重要な課題となる。
また図6には、アセトアルデヒドとトルエンに関して、北海道と本州における基準値をオーバーした割合を示してある。基準値のオーバーは、トルエンでは89%、アセトアルデヒドでは67%と本州が圧倒的に多いことが分かる。北海道に比べ、本州地区でのVOC に対する対策が遅れているものと思われる。今後、本州地区での本協会の役割と活動が重要となる。
7.まとめ
(1)VOC が測定された検体は、日本VOC 測定協会の理事が主体に活動している地域が多く、全国的な展開には至っていない。今後は、VOC の測定士の資格試験が行なわれ地域を含めて、全国規模で本協会の宣伝と展開を図る必要がある。
(2)測定されたVOC の中で、「アセトアルデヒド」と「トルエン」は、厚生労働省の指針値をオーバーしている割合が、他のVOC に比べて極めて多い。この2物質は、シックハウス新法が施行された当初から、指針値をオーバーする割合が多く、その傾向は依然として変わっていない。業界には、シックハウス新法で規制化されているノンホルム系の建材・施工材を用いる事によって、VOCを抑えることが出来ると言う、安易な認識があるものと考えられる。
(3)北海道に比べ、本州地区での「アセトアルデヒド」と「トルエン」が指針値をオーバーしている割合が高い。また、北海道では、殆ど事例が無いホルムアルデヒド、キシレン、パラジクロロベンゼンの指針値のオーバーしているケースがあり、今後本州地域での、VOC の低減化を押し進める上での対策が求められる。