シックハウスに関して、未だに十分に理解されていないことが多々あります。その中の幾つかを紹介します。いま一度確かめて見ては如何でしょうか。
【その1】 建材から放散されるVOCに関して、いま一度確かめてみましょう。
(1) F☆☆☆☆の建材を採用しているので、シックハウスは問題ないと認識されていることです:F☆☆☆☆の建材はあくまでもホルムアルデヒドの対策に関するもので、トルエン、キシレン等の他のVOCには関係していません。また現在のシックハウス新法で規制されている化学物質は、ホルムアルデヒドとクロルピリホスの二つだけです。他のトルエンやキシレン、アセトアルデヒドなどは、人体への影響は、ホルムアルデヒドと同じであるとされているにも関わらず、未だに法律での規制はありません。
(2) 天然素材を用いているので、シックハウスの発生は問題がないと認識されていることです:天然素材を用いたと言っても、安心出来ません。最近のVOCの測定・分析においては、アセトアルデヒドは、特異な刺激臭を持つ無色の液体で、ホルムアルデヒドと同様に、塗料や接着剤などに含まれており、頭痛やめまいを引き起こすシックハウス症候群の原因物質の一つであります。アセトアルデヒドは、身近なものとしては、エチルアルコール『アルコール』が酸化すると生じます。いわゆる二日酔いの原因となる物質です。アセトアルデヒドは、表1に示すように、木材から発生することが知られています。トドマツやカラマツ等の針葉樹、広葉樹のヤチダモからの放散が認められています。また最近国産建材用木材であるスギ材からの発散が確認されています。このように木材からアセトアルデヒドが発散されることから、天然素材を使用したからと言っても、健康住宅であるとは必ずしも言い切れません。
品目 | 内容 |
木材 | トドマツ、カラマツ、ヤチダモ,ベイマツ,アカマツ、スギ |
接着剤 | 酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤 |
塗料 | 水性合成塗料、自然系塗料 |
溶剤 | エタノール |
表1 アセトアルデヒドの発生源
(3) VOCを吸収・分解する建材を用いているのでシックハウスの発生はないと認識されていることです:基本的にはホルムアルデヒドを吸収分解するもので、他のトルエン、アセトアルデヒド等の軽減は期待出来ません。そのために、VOCを吸収・分解させる建材を採用したとしても、ごく限定されたVOCのみ(主にホルムアルデヒド)に効果があるもので、他のVOCの軽減に効果がないことをしっかりと心に留め置なければなりません。
【その2】 室内を汚染する化学物質に対して、常日頃備えるべき心構えをもう一度確かめてみましょう。
(1) 予防と知識の習得:シックハウス症候群の場合、一般的に原因となる場所から離れると、その症状は軽減又は消失します。ところが、化学物質の発生原因は多様で、原因の特定が難しいことから、予防的な措置として、建物の新築、改築、改修工事や家具、備品等を入れ替える時には化学物質の発生量の低減や、日常的な換気等による対策が重要です。また、日ごろから身のまわりの化学物質について正しく認識し、家族や施設の利用者の健康に配慮した上手な付き合い方を身に付けるなどの「予防と知識の習得」に心がけに務めることが大切です。
(2) 身のまわりの化学物質と知識の共有の重要性:化学物質は、私たちの近くに存在していますが、臭いや刺激を感じないと、その存在を忘れてしまいがちです。しかし、濃度の多少はあっても室内空気には多くの化学物質が含まれています。中には、人への健康影響がよくわからない化学物質も多くあります。あまり気にすると、かえって健康不安が強くなってしまいますが、日ごろから室内の空気には化学物質が「常にある」ことを意識して、部屋の構造や使用状況に応じた換気対策を計画し、化学物質の濃度が低い室内環境を保持することを心掛けるようにしなければなりません。家庭の中では、子どもの成長に応じて、毎日呼吸している空気の中には化学物質が含まれていることや、健康への影響、また、生活に欠かせない物質であることなど、正しい情報を伝えるようにしなければなりません。ともすると、化学物質は「こわい」とのイメージがありますが、本当はどんなものなのかを知ることで、必要な換気量の確保、窓開ける換気の習慣、日用品の選び方等の理解が進み、子どもたち自身が適切に対応できるようになることが期待できます。また、子どもが利用する施設、学校等においては、子どもの健康に注意を怠らず、症状の発症が疑われた場合等の適切な判断で対応できるよう、施設の管理者や教職員の方々が化学物質に関する基礎的なことについて正確な情報を入手し、その情報を共有しておくことも必要です。
(3) リスクコミュニケーションの推進:リスクコミュニケーションとは、「環境」、「健康」、「安全」に対する危険の管理(リスクマネージメント)手法のひとつで、リスクに関心と情報を共有し、相互のコミュニケーションの進展の中で、リスク問題の解決をめざしていくものです。しかし、リスクを受ける人の立場の違い、問題に関する知識や経験の有無等により、リスクの受け止め方には違いがあります。そこで、リスクをどのように管理すべきかなどについては、居住者、事業者、行政等の関係者が、環境中の化学物質のリスクに関する情報を共有しつつ、お互いの立場を尊重して相互理解を深めるためのコミュニケーションの場を設定することが大切です。
【その3】 住宅では、殺虫剤、衣類用防虫剤、消臭剤等が日常的に使われており、シックハウス症候群の一要因とされています。これらの使用に当たって注意すべきことが何かをもう一度確かめてみましょう。
建物内では、殺虫剤、衣類用防虫剤、消臭剤等が日常的に使われています。最近では、害虫の防除には、人に対する毒性が比較的低い薬剤が使われるようになっていますが、大量の薬剤散布により高濃度となる場合や、低濃度でも長期間吸いつづけると、健康に影響を及ぼすことがあります。調理施設等、法令等により薬剤散布の義務がある場合を除き、原則として、害虫等が生息していない状態で予防を目的として定期的に散布することは避け、害虫等が発生した場合も殺虫剤等の使用以外の方法を検討するなど、殺虫剤等の使用を可能な限り抑制することが大切です。
殺虫剤 | ·薫煙剤、蚊とり線香、蚊とりマット、ダニ用シート、エアゾール剤ほう酸だんご、乳剤、粉剤等多くの種類がある。 ·薬剤成分としては、ピレスロイド系がほとんどで、その他に有機リン系、有機塩素系、カーバメート系、ほう酸等がある。 |
衣類用防虫剤 | ·パラジクロロベンゼン、ナフタレンのほか、においのないピレスロイド系薬剤や古くから使われている樟脳等がある。 ·高濃度になると、眼、鼻、のどの粘膜を刺激することがある。 |
消臭剤、防臭剤、芳香剤 | ·トイレ内に置く芳香・消臭剤:非イオン界面活性剤や植物抽物等を成分とするものが多く使われている。 ·消臭剤:臭気を化学的、生物的作用等で除去または緩和するもの多く使われている。 ·防臭剤:臭気を他の香り等でマスキングする(覆い隠す)もの多く使われている。 |
表2 建物内で使用される殺虫剤、衣類用防虫剤、消臭剤等
それでは以下、建物内での殺虫剤、衣類用防虫剤、消臭剤等の使用にあたっての注意事項を纏めて示します。
(1) 殺虫剤の使用に当たっての注意すべきこと:以下に示すものとなります。
① 使用上の注意をよく読んで、用法・用量を守って使う。
② 乳幼児、病人、ペットのいるところでは使用しない。
③ 眼や口に入らないよう、皮膚につかないよう、ガスを吸い込まない。
④ スプレーも死ぬまで虫にかけ続けつづけて、使いすぎないようにする。
⑤ 閉め切った部屋で蚊とり線香や電気蚊とりなどを長時間使用しない。
(2) 衣類用防虫剤の使用に当たっての注意すべきこと:タンスや衣類収納容器等は閉め切った狭い空間ですから、防虫剤を多量に使用する必要はありません。室内空気中の防虫剤濃度が高くならないように、使用上の注意を見て使い過ぎないよう気をつけます。特に、無臭性の防虫剤は濃度が高くなってもわからないことが多いので注意します。また、子どもが飲みこまないよう使用、保管に注意します。
(3) 消臭剤、防臭剤、芳香剤等の使用に当たっての注意すべきこと:玄関やトイレ等に置く芳香剤や消臭剤のにおいが強すぎると、嗅覚をにぶらせたり、人によってはかえって不快に感じたり気分を悪くすることがあります。特にトイレの場合は狭い空間ですから、消臭剤、防臭剤等の濃度が高くなりがちです。容器の開口部を調節するなどして揮発する量を抑えます。臭いの元はできるだけ掃除や換気で取り除き、芳香剤や消臭剤は適度に使うようにします。
(4) トイレ消臭のための芳香・消臭剤は、成分にパラジクロロベンゼン等を含むもあります。使用される時は、製品表示を確認し、原因物質を含んでいるものは原則使用しないようにし、配合成分等が未表示の製品については、製品安全性データシート(MSDS)を製造業者等から取り寄せ、適切な商品を使用するようにします。