【その1】 まず現在の換気設備の現状について纏めると、以下のものとなります。
図1は、現在採用されている換気設備に関して、寒冷地である北海道・東北・信越等を中心に、北海道住宅新聞が行ったビルダーを対象としたアンケートの調査結果を示したものです。排気熱を回収出来る第1種換気の採用は30%程度であり、ここ数年の採用は殆んど変わってはいません。これと逆に、ダクトレス第3種換気の採用は増加しており、依然としてビルダーは、「価格の安さと施工性の簡便さ」に軸足を置いていることが伺い知れます。計画換気の実現と省エネの促進の立場から考えると、ダクトレス第3種換気が未だに増加の傾向があることは、時代に逆行していると言わざるを得ません。しかしながら現在の換気設備に対するビルダーの要望の第1は、「価格と施工性」であると言えます。そのために、第1種換気もユーザーが求める価格と施工性にも呼応していかなければなりません。また第1種換気に関して、これまで採用実績があると答えたビルダーは、67%とかなり高いものとなっております。未だその採用に当たっては、試行錯誤的な状況であると言えます。それではここで、第1種換気に関して、ビルダーはどのような評価を行っているかを具体的に纏めて見ますと、次のようになります。
(1) 給気と排気の2通りのダクト配管が必要とすることから施工が難しく、複雑となる。また断熱ダクトを使用することからダクト径が大きくなり、配管スペースの確保に苦労する。
(2) 高断熱化すると暖房と換気設備を低イニシャルシステムに出来ると思われるが、低コストのベストと言える第1種の製品が見当たらない。
(3) 関東北部では、第1種と第3種のどちらかが良いのか判断出来ず、今のところ明確な見解が見渡らないことから、採用に踏み切れない。
(4) メンテナンス面で問題がある。とくに給気ダクトの清掃が大変そうである。また、フィルタの清掃にも問題を有する。
(5) イニシャルコストが高く、さらにランニングコストも高くなりそうである。先ずは顕熱型で低価格な製品があれば採用に踏み切りたい。
(6) 換気設計が難しく、計画通りの換気が行われるどうかの疑問がある。また稼動中に起こる想定外のトラブルも心配である。
(7) デフロストの時間帯が長く、本来の第1種換気の役割を果たしている時間に問題を有する。
(8) 換気設備の本体が大きいことから、設置スペースの確保に苦労する。
【その2】 換気設備の今後の動向に関して、その種類別に纏めてみますと、以下のものとなります。
(1) 排気型局所換気方式:省エネの推進に絡み、当然ながら今後、住宅の気密レベルは高まって行くものと考えられます。そのためにファンの能力が低いパイプファンを用いた局所換気では、必要換気量の確保は難しくなって来ます。また、局所換気方式では、排気熱の回収を行うには構造上難しいと思われます。このような事から、今後局所換気の需要は下がって行くものと考えられます。
(2) 排気型セントラル換気方式:この換気方式は、現在計画換気を実現する上で高い評価を得て、現在の換気設備の主流となっています。今後とも換気設備の主流を維持する上では、簡便かつ安価な排気熱の回収装置の開発が強く求められます。
(3) 熱交換型換気方式:住宅の省エネ化の推進に伴って、熱交換型換気システムの需要は、今後高まって行くものと予想されます。そのためには、現在の熱交換器が抱える幾つかの問題の早急の解決が求められます。また現在の熱交換器は、顕熱型と全熱型の二つがあります。わが国ではこのどちらが適しているかは今のところ定かではありませんが、現在の普及状況の推移を見ると全熱型に優位性があるように思われる。
(4) 給気型セントラル換気方式:室内の給気を強制的に行う第2種換気は、換気設備の先進国である欧米ではほとんど普及していません。当然わが国でも、同じく殆ど採用されていません。しかし最近話題となっているPM2.5や、花粉症対策に当たっては、高性能外気清浄機が開発され、それ給気経路に容易にそれを取り付ける事が出来ることから、今後有望な換気システムとなるものと考えられます。
(5) パッシブ換気方式:室内外の温度差に基づく自然換気力を用いるパッシブ換気は、極めた省エネ型の換気設備であると位置付けされています。ただ現在のところ、北海道のような室内外の温度差が大きい地域での採用に限られています。今後本換気方式も排気熱を回収する方法が求められて行くことになります。
【その3】 現在の換気設備が抱えている問題を纏めてみますと、以下のようになるものと思います。
(1) 第3種換気での排気熱の回収です:第3種換気での排気熱の回収は、今後住宅の省エネ化を推し進める上で解決しなければならい最も大きな課題となります。これまで排気熱を回収するための幾つかの方法が提案され、実用化されたものもあります。その代表例は、セラミックスを用いた蓄熱体による排気熱の回収、ヒートポンプを用いた暖房熱への応用、そして積雪寒冷地での融雪への利用等があります。しかしながら設備コスト等の問題で、採用の実績はあまりないのが実情です。今後、排気熱を回収する低価格で簡便な熱交換装置の開発が待たれます。
(2) 0.5回/hの室内の換気回数の是非です:換気回数0.5回/hは、炭酸ガスの濃度を基準に定められたものです。その為に幾つかの問題を持っています。例えば少人数で建坪の大きな住宅においては、換気回数0.5回/hは、明らかに過剰な換気となります。また室内VOCの立場からは、竣工一年後では換気回数を0.3回/h程度でも問題がない事が分かってきています。さらに省エネの立場から見ると、第3種換気での冬季の換気回数0.3回/hとすることで、排気による熱損失が40%削減されます。現在の第1種換気での熱回収率が60~70%程度であることを考えると、冬季での換気回数を0.2~0.3回/hに下げることは、熱交換器と同等の大きな省エネ化を生み出します。シックハウス新法施工後10数年経過しており、換気回数0.5回/hの是非を種々の見地から、検討すべき時期に来ていると言えます。
(3) 換気設備施工後の換気量の検証です:必要換気量の評価は、確認申請時での提出された換気設計書に基づいて行われています。換気設計の段階で換気回数0.5回/hが確保されていればOKです。しかし実際には、ダクト配管の不備等で、施工後では必要換気量が確保されていないケースが多々あります。中には換気量不足でシックハウスを引き起こし、裁判問題になった事例も過去にあります。換気設備の施工後での必要換気量の検証が強く求められます。
(4) 外からの汚染物質の防止です:外気は当然ながら、汚染物質を含まない新鮮空気であるとは限りません。外気に含まれる汚染物質の代表は、今話題となっていますPM2.5です。その他に花粉や火山灰等があります。現在の換気設備には、給気経路にフィルタが取り付けられていますが、これらの汚染物質を完全に除去するまでには至っていません。このような実情から、給気経路に取り付けてPM2.5や花粉をほぼ完全に除去出来る外気清浄機に対する注目が高まって来ています。今後外気に含まれる汚染物質を除去する上での外気清浄機の普及は進んで行くものと思われます。
(5) 竣工後の室内VOCの検証の促進です:シックハウス症候群は、今後とも重要な課題となって行きます。快適な室内空気環境を実現する上で、竣工後における室内VOCの測定は是非とも実施すべきであると考えます。差しあたって、厚生労働省が出されているVOCの13物質の内で、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの測定を義務付けるべきであると考えます。
(6) ダクトを含めた換気設備の清掃です:換気設備の清掃は、シックハウス新法の施行後からの課題ではあるが、ほとんど進んでいないのが実情です。その主たる理由は、換気装置が天井裏等の清掃が困難な場所に取り付けられていることです。欧米では、換気設備を天井裏等の清掃がし難い所に取り付けることはほとんど有りません。最近わが国でも清掃が容易にするために、1Fや2Fの床上、あるいは1Fの床下に設置すべきであるとの提案がされつつあります。是非とも実現すべきと考えます。