ビルダーは、「全熱型は顕熱型よりも優れている」と考えています、以下に示す事項を取り上げて、その信憑性を纏めて見ました。
【その1】 全熱型は顕熱型に比べて熱回収量は大きい。その信憑性は : 熱交換器の回収熱の評価に当たっては、現在販売されている熱交換器で、最も性能(熱交換効率)が高いとされる全熱型と顕熱型の中から、つぎの二つ機種を選択しました。
(1) 顕熱型として熱交換効率が最も高いとされるPAUL社の「FOCUS 200」
(2) 全熱型として熱交換効率がもっと高いとされるパナソニックの「FY-23KBD」
温度交換効率(%) (暖房時) |
温度交換効率(%) (冷房時) |
92 | 88 |
表1 顕熱型FOCUS200の流量170m3/hでの温度交換効率
エンタルピー交換率(%) (暖房時) |
エンタルピー交換率(%) (冷房時) |
77 | 72 |
温度交換率(%) (暖房時) |
温度交換率(%) (冷房時) |
82 | 73 |
表2 パナソニックの全熱型(FY-23KBD1)の流量170m3/hでの熱交換効率
(1) 対象地域は、極寒冷地の旭川、準寒冷地域の盛岡、そして温暖地域の大阪のとした。
(2) 3つの対象地域における外気及び室内の温度と湿度は、20年間の平均値を用いています。【注1】
(3) 換気量は170m3/hとした。
(4) 灯油価格は最近の80円/ℓとした。
【注1】例えば旭川市における外気と室内の温湿度は、次に示すもととなる。
月 | 平均温度(℃) | 相対湿度(%) | 絶対湿度 (kg/kg) |
1 | ー7.1 | 92 | 0.0019 |
2 | ー6.3 | 80 | 0.0018 |
3 | ー1.4 | 70 | 0.0024 |
4 | 4.7 | 66 | 0.0035 |
5 | 11.3 | 66 | 0.0055 |
6 | 16.7 | 74 | 0.0088 |
7 | 19.9 | 80 | 0.0116 |
8 | 20.2 | 83 | 0.0123 |
9 | 16.0 | 80 | 0.0091 |
10 | 9.1 | 85 | 0.0061 |
11 | 2.6 | 78 | 0.0035 |
12 | ー4.7 | 95 | 0.0024 |
表3 旭川市における外気の温度と湿度(過去20年間の平均値)
月 | 平均温度(℃) | 相対湿度(%) | 月 | 平均温度(℃) | 相対湿度(%) |
1 | 20 | 40 | 7 | 24 | 55 |
2 | 20 | 40 | 8 | 24 | 55 |
3 | 20 | 40 | 9 | 22 | 55 |
4 | 20 | 40 | 10 | 20 | 50 |
5 | 20 | 40 | 11 | 20 | 40 |
6 | 22 | 55 | 12 | 20 | 40 |
表4 旭川市における室内の設定温湿度
熱交換器の種類 | 旭川市 | 盛岡市 | 大阪市 |
顕熱型 (FOCUS200) | 46,386円 | 35,117円 | 20,555円 |
全熱型 |
54,519円 | 41,361円 | 19,473円 |
表5 灯油に換算した回収される熱量の比較
一般的には一回収される熱量は、全熱型は顕熱型に比べて優れていると考えられています。しかしながら回収される熱量は、現在のところ最も高いエンタルピー交換効率(水蒸気を含む全熱交換効率)を有するパナソニックの(FY-23KBD1)でも、灯油換算で顕熱型に較べて旭川市では8,100円、盛岡市で6,250円、大阪市で逆に全熱型の熱回収(1,080円)は、顕熱型に比べて小さくなります。このことから、寒冷地では熱回収の面において全熱型が顕熱型にくらべて若干の優位性を有するが、温暖地域の東京以南での両者の優位性は逆転していることになります。現在、温暖地域でさえも熱回収の面で全熱型は顕熱型に比べて優れていると考えられている、その信憑性はないことになります。
【その2】 全熱型は室内の汚染物質の再リターンは無い。その信憑性は : 室内の汚染物質としては、有機性揮発物質(いわゆるVOC),臭気、ウィルス菌、ハウスダスト等と多岐に渡っています。現在の顕熱型熱交換器での漏気率は極めて小さい(2~3%以下)ことから、熱交換素子等を通してのこれらの汚染物質の室内への再リターン問題は、ほとんど無いと考えられます。一方全熱型素子では、「ガスバリア」と称する透湿性の素材を塗布することで、水蒸気以外の汚染物質の透過は殆ど無いとしています。しかしながら、汚染物質の再リターンに関しては、定性的な説明のみで、その性能に関するデータの提示は全くされていません。このようなことから、全熱交換素子の水蒸気以外の汚染物質の再リターンは無いとのメーカーの説明に対して、疑問視せざるを得ません。また、この汚染物質、とくにVOCの再リターンは以前から非公式には指摘されていたが、公的にも明らかにされたのは「シックハウス新法」を定める過程だと言われています。熱交換器、とくに全熱型熱交換器を積極的奨励すべきだとする意見と、奨励すべきではないとする意見に大きく分かれる中で、ホルムアルデヒドなどのVOCを測定したところ、その結果画あまりにも悪かったために、その原因の調査を行ったところ、熱交換素子を通してのVOCの再リターンが主な原因であることが分かりました。そのために、この全熱型熱交換器におけるVOCの再リターン問題は、全熱型熱交換器のメーカーへの影響があまりにも大きいことから、今日までウヤムヤにされてきました。ただその後、全熱型熱交換器のメーカーは、水蒸気の大きさと同程度か、それ以下の大きさのVOCは透過しないとされている熱交換素子を製品化し、「ガスバリア」と称して販売を開始しております。しかし残念ながら、その性能に関するデータの開示は未だにされておりません。
通常熱交換素子を通しての水蒸気の透過は、素子の孔径が水蒸気の分子よりも大きくする事で行われます。ですから、汚染物質野大きさが水蒸気の分子の大きさと同程度か、又はそれ以下ならば、素子を通過し、再リターンする事になります。汚染物資の捕集は、今の技術では次の二つの方法で行われています。
(1) 繊維状のフィルタでろ過して捕集する方式
(2) 汚染物質を電荷してコレクト板に吸着させて捕集する方法
フィルタは、物質の大きさに対応させて空隙(孔径)の大きさを変化させ、物質をろ過するもで、種々の空隙の大きさを有するものがある。熱交換素子は、上記の(1)の物質をろ過させるフィルタ機能を有するもので、水蒸気の分子の大きさよりも大きな物質は透過させない機能を有するものです。表6に室内の汚染物質の大きさを纏めて示してあります。
室内の汚染物質 | 大きさ | 再リターンの有無 |
スギ花粉 | 30μm | 無し |
インフルエンザウイルス | 0.1μm | 無し |
結核菌 | 2.0μm | 無し |
白癬菌 | 5.0μm | 無し |
風邪ウイルス | 0.05μm | 有り |
ホルムアルデヒド | 0.0002〜0.0005μm | 有り |
トルエン | 0.00038μm | 有り |
ベンゼン | 0.00038μm | 有り |
におい | 0.001μm | 有り |
水蒸気 | 0.04〜0.0004μm【注5】 | ― |
表6 室内の汚染物質の大きさ
【その3】 全熱型は室内の臭気の再リターンは無い。その信憑性は :私たちの生活が豊かになり、余裕が出てくると、つぎに日常生活の快適さ(アメニティ)を求めるようになります。我々がまわりの空気について快・不快を感じるのは暑さ・寒さのつぎに「におい」であると考えます。リラックスしようとするほど、これまでは気にしていなかった身近な空気の「におい」が気になりはじめます。我々が「におい」、すなわち悪臭と感じる成分は幾種類もあるのですが、4大悪臭とよばれるものと、その代表的成分を表7に示します。この悪臭成分の化学式をみるとタンパク質に類似しています。人間をはじめとする動物は、タンパク質で体を構成していますが、そのタンパク質は各種のアミノ酸の結合で出来ています。タンパク質を構成するアミノ酸は20種類あるのですが、これらはすべて窒素(N)、炭素(C)、硫黄(S)から出来ています。これらアミノ酸類と表5の「におい物質」を比べると、「においの物質」の多くは不揮発性のアミノ酸が分解して、揮発性の物質となったものであることがわかります。
においの種類 | 代表的物質 | 人間の鼻で感知できる限界濃度 |
・トイレ臭 | アンモニア NH3 | 0.15ppm |
・腐った魚のにおい | トリメチルアミン (CH3)3-N | 0.0001ppm |
・腐った卵のにおい | 硫化水素 H2S | 0.0005ppm |
・腐ったタマネギのにおい | メルカプタン CH3-SH | 0.0001ppm |
表7 代表的悪臭と感知濃度限界
悪臭物質は空気中に揮発し,我々はその空気を吸って、「におい」として感じるわけですが、人間が[におい]として感じられる空気中の濃度を表7に示してあります。表7に示すように、「におい」を感じる空気中の濃度は、最新の分析機器もおよばないほど微量です。「におい」として感じるのは0.1ppm以下であり、メルカプタンは0.0001ppmです。この濃度の単位ppmは、1の空気体積に対して百万分の一という微少な値です。例えば0.1ppmの成分ガスを20m3の室内から全部集めても、気体の体積としては高々2cm3です。これを揮発する前の液体にすると10mg程度しかありません。このようにわずかな量で、においを我々は感ずることになります。
室内に発生した「におい」を無くするには、消臭・脱臭剤を用いる方法と、室内換気で強制的に外部に排出させる方法があります。室内換気は、「におい」を無くすには極めて有効な方法であり、その代表がレンジフードです。ただレンジフードはダイニングルームの局所的な換気には有効です。しかしながら寝室やトイレを含めた居住空間全体の「におい」を無くすには、機械換気が基本となります。第3種排気型換気や第1種顕熱型換気においては、排気された「におい」の室内への再リターンは無いと考えられます。しかし第1種全熱型換気では、熱交換素子を通しての「におい」の再リターンの恐れがあります。すなわち、「におい」の分子が水蒸気の分子と同程度か、それ以下であれば熱交換素子を通して再リターンが生じる危険性が生じます。そのために、全熱型は室内の臭気の再リターンは無いとしていますが、当然ながらその信憑性は疑問視せざるを得ません。
「におい」の分子の大きさは、表6に示してあるように、つぎに示すのものとなります。
「におい分子」の大きさ=1nm(ナノメートル)=0.001μm
したがって、「においの分子」大きさは水蒸気の分子と同程度か、よりも小さいことから、熱交換素子の空隙を通して、水蒸気と共に再リターンする恐れが十分に考えられ、全熱型は室内の臭気の再リターンは無いとしているが、その信憑性を疑問視せざるを得ません。
【その4】 全熱型の湿度回収は100%と考えられている。その信憑性は : 冬期の暖房時の全熱交換換気装置は、室内から排出する空気(RA側)から熱と湿気を交換し、取り込む空気(SA側)で回収して、室内に戻します。この場合、どの程度の湿度が交換され、室内に戻ってくるかは、全熱型熱交換器優位性を議論する上で重要となります。世間一般的には、室内の湿度は100パーセント回収されるものと思われていますが、冬期の暖房時の全熱型熱交換器の平均的な湿度交換効率は60%程度となります。つまり、最低でも、屋内の湿気の40%は排出していることになります。それに加え、多くの全熱型熱交換器は、室内の過剰な湿度に対して、メインコントローラーの湿度センサーで監視され、室内の湿度があらかじめセットしたレベル以上になると、全熱交換換気装置は高速運転を行い、換気量を増やします。また、窓の結露などが特に問題となる冬季は、コアにある排気バイパスダンパーが開き、約20%の空気がコアを通らずに排気されます。これにより湿気の交換効率を約30%低下することになります。以上述べたように、全熱型熱交換器の湿度の回収率は、通常半分以下になることを知っておくべきと考えます。乾燥気味になる日本の冬期の室内環境を考えると、熱交換素子を通して室内の湿気を交換して取り込み、室外の乾燥した空気に湿気を与えるという全熱型熱交換器の特性は、室内の過剰な乾燥を防ぐ効果を有する。しかしながら、大多数のビルダー及びユーザーが思っているような、「排気される室内の大部分の湿度は回収され、室内に再度リターン」することはありません。排気される室内の湿気の再リターンは、その半分以下なのです。